今年も2023年の映画総括だ。
今年観た映画は、劇場公開が124本でそれ以外が17本の計141本。
ギンレイホールが閉館したことを考えると、かなり頑張った方だと思う。
しかも劇場公開124本のうち半分以上の64本を、9月以降の4カ月で観ている。
なぜか今年前半は目ぼしい作品がスカスカで、話題作が9月以降に集中していた事が原因なのだが、時間のやりくりにかなり苦労した。
また、今年は洋画が例年にない低レベルの駄作ばかりでほぼ全滅状態である。
ベスト10は邦画6本と韓国映画3本で、洋画はわずかに1本のみ。
年始の「アバター」の大スベリから始まり、アカデミー賞の「イニシェリン島の精霊」「エブ・エブ」「TAR/ター」も期待外れ、極めつけはMCUの「マーベルズ」だ。
「こんな酷い映画は劇場公開すべきではない!」と止める者は誰もいなかったのか、と言うレベルである。
1位はかなり迷ったが「キリエのうた」だ。
私が岩井俊二が好きという事あるのだが、非常に繊細で悲しい作品だった。
特に主役の二人(?)、アイナ・ジ・エンドと広瀬すずの演技が素晴らしかった。
アイナはBiSH解散前から歌ではソロ活動をしていたが、たぶん本格的な演技は初めてだ。
ダンスも歌も上手く表現力があるので、演技力があっても不思議ではないのだが、これほどまでの演技力を持っているとは思わなかった。
高校時代の先輩にグイグイ迫るキリエと、ストリートミュージシャンになってからの控えめなキリエの、好対照の演技が印象的だ。
おそらく、日本アカデミー賞新人賞は間違いなく、もしノミネートされればいきなり最優秀主演女優賞を取ってもおかしくないレベルである。
広瀬すずは、今回は悪女の役なのだが、こんな役ができるとは思わなかった。
彼女も悲しい過去を引きずって悪女になるのだが、その悲しみが完璧に表現されていた。
2位は「ゴジラ -1.0」。
正直「キリエのうた」とどちらを1位にするか迷った。
庵野秀明の「シン・ゴジラ」の後では、どんなゴジラを作っても陳腐な作品にしかならないと高をくくっていたが、その愚かな先入観を根底から完全に覆された。
山崎貴がこれまでに戦中モノを作った時に感じた思いを、この作品にぶつけている、と言っても過言ではないだろう。
国民は日本が勝つと信じてすべてを犠牲にしていたのに、敗戦を迎える。
これまでの自分たちのアイデンティティを根こそぎ叩き潰され、物資だけではなく夢も希望も目標もない日々を送らなければならない。
そこからやっと復興が見えてきたときに、ゴジラ上陸で東京は再度廃墟の危機を迎える。
戦争で完膚なきまでに叩きのめされた人々が、今度こそ日本を護るんだと言う強い意思のもと集まって、どう考えても対抗する事など不可能なゴジラに立ち向かう。
この強い思いに素直に感動した。
3位は「ミステリと言う勿れ」。
ハッキリ言って、観に行くまではそこまで期待はしていなかった。
しかし原作でもシリーズNo.1の人気作品と言う事もあってか、非常に高い完成度であった。
なかでも特筆すべきは、狩集汐路役の原菜乃華の演技力だ。
序盤は「久能整クン!」と言う独特なしゃべり方を見せるのだが、それもすべて劇中の演技で、中盤で久能整にそれを見破られてしまう。
その演技を見破られた後、そして事件の真相を知った時、これらをすべて別キャラのように演じ分けている。
彼女も、日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞を獲ってもおかしくないレベルだ。
「すずめの戸締まり」の時は声だけだったので気づかなかったが、大河ドラマの「どうする家康」の千姫役も素晴らしく、今後注目の女優である。
4位は韓国映画の「人生は、美しい」にする。
余命宣告を受けたちょっと天然な妻と、モラハラが酷いながらも実は妻を心から愛している夫の、おもしろおかしいロードムービーである。
作品はミュージカル仕立てになっており、序盤はちょっとなじめなかったが、ラストはただただ感動で涙しそうになった。
満席で50席くらいの狭いスクリーンで、かつ朝イチの上映会だったためたぶん観客は20名くらいだったと思うが、ラストは私以外のすべての人がすすり泣きをしていた。
感動ストーリーという部分では、私が観てきた歴代の作品の中でもベスト10に入りそうなクォリティだ。
5位は「非常宣言」で、こちらも韓国映画。
ハワイに向かう航空機がバイオテロに襲われ、どの飛行場にも着陸を断られると言うストーリーだ。
よく知らなかったが、世界的な航空機法では「非常宣言」中の航空機の着陸を拒否することはできないそうだが、日本をはじめ各国の飛行場に着陸を拒否される。
なんとか韓国までたどり着いていざ着陸、と言う場面で、今度は韓国のネット世論からも着陸させるべきではないと言う発言が出る。
主役の刑事の家族が航空機に搭乗している、などの設定も巧い。
良質なパニック映画だが、ラストは少し感動もしてしまった。
個人的には、機内の女性チーフパーサーと、地上で乗客を護るために政府と対立する女性交通大臣に、強く共感した
6位は「花腐し」。
ピンク映画界が舞台で、二人の映画監督が酒を飲みながら、かつて愛した女の話をする作品だ。
実は二人は一人の同じ女を愛しており、二人とも途中までその事に気づかない。
会話をしながら当時を振り返る映像が流れるのだが、その二人が愛した女優祥子をさとうほなみが熱演している。
ズバリ言って、オールヌードでかなり激しいベッドシーンもある。
川谷絵音のスキャンダル後は、バンド活動が激減しているゲスの極み乙女だが、さとうほなみはこの後役者業に本腰を入れるべきではないかと言うレベルの演技力だった。
地味だが綾野剛と柄本佑の、酔っぱらいながら話す演技も個人的には好きだった。
7位は「ザ・フラッシュ」。
2023年唯一のハリウッド作品だ。
ハッキリ言って、フラッシュの映画と言うよりはバットマンの映画と言った方がいいかもしれない。
しかも、「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」のパクリと言っていい作りである。
しかしそれでも面白かった。
DCEUはこの後どうなるのかよくわからないが、ジャスティス・リーグにこだわらなくてもいいので、このレベルの面白い作品を作って欲しい。
8位は「リバー、流れないでよ」。
劇団ヨーロッパ企画の映像作品で、脚本は主催の上田誠が書いている。
とここまで書けばお分かりの通り、お得意のタイムリープ作品だ。
この作品の面白い点は二つ。
一つは、タイムリープしている全員が、それ以前の記憶をすべて保持していると言う珍しい設定。
普通、タイムリープモノはタイムリープしている本人以外はその事に気づかないのだが、この作品は全員が一斉にタイムリープしているのですべて記憶を保持している。
そのため、全員でタイムリープのループを止めようと苦労するのだが、その間にもキャラクター間のいろいろな人間関係が描かれる。
もうひとつは、撮影中に大雪が降ってしまったため、タイムリープするといきなり大雪のシーンになる事がある点。
しかしそれも、「うわー、今度の世界は大雪だ」と言うセリフを入れて乗り切っている。
この開き直り方が気持ちいい。
上田誠は2023年秋期でTVドラマ「時をかけるな、恋人たち」でも脚本を担当していた。
こちらもかなり面白く、今後もかなり期待ができる。
9位は「コンフィデンシャル:国際共助捜査」で、これも韓国映画だ。
前作がある事も知らずに観に行ったが、それでも十分楽しめた。
前作は韓国のダメ親父刑事と、北朝鮮のイケメン刑事のバディものだったらしいが、今回はそこにFBIのイケメン捜査官が加わる。
ダメ親父刑事の妻の妹は、前作では北朝鮮のイケメン刑事に夢中だったようだが、今回はFBIのイケメン捜査官に夢中になる。
前作で邪険に扱われたダメ親父同様、今回はイケメン刑事もそこそこ邪険に扱われる、という構図だ。
この3人が北朝鮮の麻薬の密売組織のリーダーを追う。
このリーダーのバックボーンがなかなか苛烈で、刑事3人のコメディ部分とのメリハリになっており、クライマックスシーンの緊張感へと繋がっていく。
10位は『映画「月」』。
2016年に発生した津久井やまゆり園事件をテーマにした作品で、内容にビビッたせいか上映劇場が少なく、観に行くのにかなり苦労した。
しかし苦労して観に行く価値のある作品だった。
主演の宮沢りえは、デビュー作以降はヒットがでない作家で、障碍者施設で働くことにする。
そこには作家を目指す二階堂ふみと、画家を目指す磯村勇斗が働いていた。
二階堂ふみは、宮沢りえに「小説のネタのために働ているんですよね」など、デリカシーのない発言をするが、その後で自分の無礼を詫びる事を繰り返す。
磯村勇斗は入所者に丁寧に接するが、その事を施設の先輩になじられいじめに近い仕打ちを受ける。
この3人のうち誰が凶行に走るのか、それがクライマックスまでわからない。
誰もが塀の上を歩いていて、あちら側に落ちるかこちら側に落ちるかは紙一重、と言う構図だ。
その見せ方が巧かった。
11~20位は、順位はなく以下の10本。
私がやりました
市子
スイッチ 人生最高の贈り物
映画 イチケイのカラス
1秒先の彼
MEG ザ・モンスターズ2
ホーンテッドマンション
バーナデット ママは行方不明
ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り
NO 選挙,NO LIFE
ここでもアメリカ映画は4本のみ。
その他では、TVドラマの映画化モノが、かなりレベルが高かった。
年始の「Dr.コトー診療所」を観るために、一昨年の年末はかなり苦労してTVシリーズをすべて見たのだが、正直そこまで頑張って観る作品ではなかった。
ここ10年くらい、映画化前に復習するのがツラいので、映画になりそうなTVドラマは先に見るようしていたのだが、そろそろそれも止めようかと思っていた。
しかし、今年は20位までに入っていないが「劇場版TOKYO MER~走る緊急救命室~」もなかなかいい出来だった。
今年は昨年後半のような過密スケジュールにならないように、できれば均等に良作品を公開して欲しい。
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