「正欲」

監督は「あゝ、荒野」の岸善幸。

未見だが2017年の映画賞を総ナメにした作品だ。

そして原作は朝井リョウ。

こちらは「桐島、部活やめるってよ」「何者」が面白かったので、今回も期待して観に行ったが、ハッキリ言って期待ほどの作品ではなかった。

佐々木佳道（磯村勇斗）は横浜で働いていたが、職場の仲間とも馴染めないでいた。

ある日携帯が鳴り、両親が事故死したと連絡が入る。

桐生夏月（新垣結衣）は、地元広島のショッピングセンターの寝具売り場で働いていた。

年老いた両親と一緒に実家で暮らしていたが、友達言える知り合いもなく毎日が職場と家の往復だった。

動画サイトで水の流れる癒しの動画を見たりしていたが、夏月が訪れるチャンネルの多くで、「FUJIWARA SATORU」と言うハンドルネームの書き込みを見つけていた。

ある日学生時代の友人夫婦とばったり会い、同級の友人が結婚するから同窓会も兼ねてみんなで集まる会がある、と誘われる。

夏月は最初気が進まなかったが、佳道も出席すると聞いて出席することにする。

佳道はかつて広島にいて、夏月と同じクラスだった。

ある日ホームルームで、「蛇口を壊して水が飛び散るのが嬉しかった」と言う新聞記事が印象に残った記事として取り上げられていた。

皆は笑っていたが、佳道と夏月は笑っていなかった。

その記事の犯人は「FUJIWARA SATORU」と言う名前だった。

ホームルームの後、佳道は校庭の蛇口を壊して水を噴出させる。

夏月も噴出する水を見て興奮していた。

その後すぐ佳道は、転校してしまう。

佳道は両親の事故死を機に、横浜の仕事を辞めて広島に戻ってきていた。

結婚式で佳道に興味を持った女子がいて、二人はその後会うようになる。

その様子を見ていた夏月は面白くなく、佳道の家の窓ガラスを割ってしまったりする。

そして大晦日の夜、両親ともめた夏月は車で暴走し、たまたま自転車で通りかかった佳道を避けようとして田んぼに突っ込んでしまう。

夏月は佳道に助けられ、佳道が泊まっていたホテルに行くが、佳道はそこで自殺をするつもりでいた。

その事を見抜いた夏月は、自分が水に性的興奮を感じる事を、佳道に告白する。

佳道も同様だと夏月に伝え、二人は偽装結婚をして横浜に移り住むことにする。

寺井啓喜（稲垣吾郎）は横浜で検察官をしていた。

妻と小学生の長男と暮らしていたが、長男は学校に馴染めず不登校だった。

妻は長男のためにいろいろと手を尽くしているが、啓喜はすべて妻任せにしていた。

ある日長男が、動画チャンネルをやりたいと言い始める。

同じように動画チャンネルを開設している不登校の小学生の、影響を受けたのだった。

啓喜は反対をするが、妻と長男は不登校のサークルに参加して動画チャンネルの仲間を見つけ、子ども二人で動画チャンネルを始める。

神戸八重子（東野絢香）は大学で、「ダイバーシティフェス」の実行委員になっていた。

八重子はある事がきっかけで極度の男性恐怖症だったが、フェスに参加するダンスサークルの諸橋大也（佐藤寛太）と知り合い、彼とは接触しても大丈夫であることに気づく。

八重子はなんとか大也との距離を縮めようとしたが、大也から拒否をされてしまう。

それぞれ性的なフェチを抱えた登場人物が、数奇な運命で巡り合う物語だ。

だがその中心が「水フェチ」で、設定が破綻していると思う。

知り合いに水フェチがいないため、実際にどのような人たちであるかはわからないが、少なくとも映画を観た限りでは、大きな滝や波しぶきの大きい岸壁などに行けば、誰にも迷惑をかけずに性的興奮も満たされるのではないかと思う。

人を性愛の対象にできないと言う部分ではいろいろと弊害があるかもしれないが、今の社会では人と関わりたくないと言う人はいくらでもいて、一生を独身で過ごす人も少なくない。

誰にも迷惑をかけない「水フェチ」と言う性癖に、罪悪感を感じて生きづらいと言う設定には、まったく共感ができなかった。

そして後半、そこから半ば強引に性犯罪へと話を傾けていく。

ストーリーの途中に薄い伏線は貼られてはいるが、正直強引さは否めなかった。

稲垣吾郎が演じた寺井啓喜も、キャラとしての立ち位置が中途半端だった。

原作は読んでいないが、あるいは原作はストーリーに筋が通っていて整合性が取れているのかもしれない。

ただ「正欲」と言うタイトルで中心が「水フェチ」と言うのは、やはり無理があると思った。

116.正欲