久しぶりに、川端康成の『朝雲』の朗読してきました。

目の不自由な方のボランティアで、ヒロインの女学生“宮子”は、

私の当たり役なんですよ~。

一回目は想いを寄せる菊井先生を、現役の高校生が演じたんですが(逆やろ~?)

二度目は、現役の高校の英語の先生で、無口でりりしい雰囲気、よく出てました。

ブログ記事・『朝雲』に見る乙女心

http://ameblo.jp/ameba-hikari/entry-10948753670.html

 

私は、ぜんぜん惚れっぽくないのですが、

ちょっとした憑依体質で(笑)こういうとき全力で感情移入してしまい、

収録中、私の相手役は、「この子、自分に惚れている」と思うそうです。

終わると同時に、憑き物が落ちてさっぱりするので、

狐につままれたような気がするとのこと((´∀`))

 

 さて、今回は、泉鏡花の『外科室』

伯爵夫人というむずかしい役どころでした。

時は明治。貴船伯爵夫人はガンの末期で、手術が行われようとしています。

けれども夫人は、麻酔をかたくなに拒むのです。

心に秘めたことを、うわごとで言ってしまう、そのことを恐れてたのです。

名医の誉れ高い高峰医師によって、麻酔なしの執刀が行われるのですが・・・。

 

実は、夫人は少女の恋をしていました。

遠くから見つめるだけの高峰医師に、ひそやかな想いを寄せていたのです。

 

「痛みますか」

「いいえ、あなただから、あなただから…。

でも、あなたは、あなたは、私を知りますまい!」

「忘れません」

 

高峰医師もまた、貴船伯爵夫人に恋をしていました。

熟年男女のプラトニックな恋です。

 

その時の二人がさま、あたかも二人の身辺には、天なく、地なく、社会なく、

全く人なきがごとくなりし。

 

この世で二人だけが存在しているだけの状態。

鏡花はそう書いています。

 

文語体で書かれている小説に、いかにもふさわしい情景です。

この後、夫人は自ら命を絶ち、

後を追うように高峰も亡くなってしまいます。

 

夫の伯爵がアホのようだという意見は、男性に多いのですが、

私は、貴船夫人が夫を愛していなかったとは思わないのです。

自分をそばで愛し、いつくしんでくれる男性。

操を立て、命を懸けて夫の名誉を守った夫人は、深く深く、夫を愛していました。

 

女は初恋を二度してしまうことがあるのかもしれません。

その幼いガラスのような恋は、

真面目で純情な女にも、容赦なく降ってくる。

幸せな結婚生活をしていても、

あるいは、恋人との幸せな恋愛のさなかにも、

自分の中の少女が、思いもかけない相手に恋をしてしまう。

秘めた片想いなら、だれも傷つけない。

けれども思いがあふれ、重なった瞬間、

それはやはり罪、大切な人への裏切りになる。

 

明治の恋愛小説は、少しも古びないと思うことしきりです。

 

こういういじらしい女心は、今の世にもも生き続けていると思います。

私なら、秘めたプラトニックな想いを、そっとしていてほしい。

けれどもこういうとき、自分に向けた想いを、気づかないふりをしてやれる

そんな大人の男性が、どれほどいるのかな・・・。