久坂部 羊のいわゆる医療小説「無痛」と「第五番 無痛Ⅱ」を読んだ。医療に絡む殺人、国際秘密結社の陰謀、医師・医学者の野望など多彩な事件を組み上げた社会派小説で、人間模様も抜け目なく散りばめている。
医学用語をふんだんに使っているので、素人には煩わしくも勉強にはなる。ただし、医学的知識として真に受けてよいものかどうか、ファンタジー風の部分もあり、やはり小説として楽しむに限る。
「無痛」は2006年4月、「第五番 無痛Ⅱ」は2012年2月に発表されたとのことで、ほぼ6年の間が空いているのは如何なる事情だろうか。前者が内容的に一応完結しているならば、気にはならないが、新たな事件発生の場面で切れており、明らかに続編を予定した終わり方である。
ここ一年の新型コロナ騒ぎを髣髴させる記述が強く印象に残る。パンデミックがもたらす社会の混乱を素材とする小説は昔からあるが、これら2冊は今回の混乱を予言したと思えるほどだ。元凶たる病気がインフルエンザのような感染症でない仮想の「新型カポジ肉腫」である所が大違いだが、医療崩壊、ワクチン開発、集団感染、経済問題など現状の描写のようだ。
昨今なにかと胡散臭い国際機関WHOについて以前から疑惑があったらしい。科学的で正確であるべき情報を歪曲して発信し、各国の医療行政を誘導して、製薬企業の利益を図った事件があったとか。狂気のトランプ大統領もWHOに対する態度は結果的に正鵠を射ていたとも言える。
有効性や副作用有無のはっきりしない新型コロナワクチンの供用を急ぐ風潮に危うさを感じる。
続編のタイトルにある「第五番」はベートーヴェンの名曲「交響曲第五番」に因むと言う。