出勤の際に時々利用するエレベータの一つは、大通りに面したガラス扉から真っ直ぐ7~8メートル奥にある。先を歩く長身の男性が乗り込んでこちら向きになった時、互いの姿が眼に入った(と思った)。
その後直ぐに扉が閉じたので、駆け込みは諦めて、篭が戻ってくるのを待とうと思いながら呼びボタンを押すと、なんと、扉が開いた。
篭は数秒間動かず、そこに留まっていたことになる。あの長身の男性が居た。欧米人だった。お互いに行き先階のボタンを押した。
事態が呑み込めないまま、取り敢えず‘Thank you!’と礼を言ってから、寒いねー、とか、どちらから?とか和やかに言葉を交わした。
彼は4階で降り、当管理人は8階まで行き、9階まで階段を上った。
そのあと、暇に飽かせてさっきの事態を反芻した。彼はエレベータに乗った後、行き先階を押さなかった。そのためエレベータはそこに留まった。
これは偶然か、故意か。当管理人は善意に解して、‘Thank you!’と言ったのだが、彼の反応は必ずしもそれを予期していたようでもなかった。
推測ゲームは果てしなく続けることが出来るが、やめよう。
咲きかけたヒメシャガが、蕾のまま寒風に震えている。