ルドゴレツ・ラズグラトとは何者か | un piquillo de amarillo

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リーガ・エスパニョーラのサッカークラブ、ビジャレアルCFの歩みの記録

UEFAヨーロッパリーグの決勝トーナメント進出クラブを眺めていて、ブルガリアのPFCルドゴレツ・ラズグラトというクラブが気になった。今までに聞いたことのないクラブ名だが、隣国ルーマニアのCFRクルジュのように一気に成長したルドゴレツとは何者なのだろうか?


トルコ系の多い町
ラズグラト(またはラズグラート、Razgrad)はブルガリア北東部にある人口約4万人の都市である。人口順ではブルガリア第30位にすぎない。首都ソフィアとは375km離れており、ルーマニアの首都ブカレストの方が近い。

ブルガリアの人口700万人のうちトルコ系は約10%を占め、ブルガリア人に次いで第2位の人口を持つ民族である。ラズグラト州はトルコ系比率が高い地域であり、約半分がトルコ系、約半分がブルガリア系、少数がロマである。

ブルガリアでトルコ系比率が高いのはルーマニアに近接する北東部一帯と南部のロドピ山脈山麓であり、トルコとの国境近くに多いわけではない。

胸スポンサーはナヴィブルガル(Navibulgar)というブルガリア最大の造船会社であり、黒海沿岸の都市ヴァルナに本拠を置いている企業である。ルドゴレツとヴァルナは約150kmの距離にあり、ルドゴレツはソフィアよりもヴァルナの勢力圏にあるのかも。

razugurato
(ラズグラトの街)


記録ずくめのルドゴレツ
2010-11シーズン
: 3部リーグから2年連続で昇格。ブルガリア初。

2011-12シーズン
: 2部リーグから1部リーグへの昇格後1年目に国内リーグ・国内カップ・国内スーパーカップのトレブル(3冠)を達成。世界で2例のみ(もうひとつはエストニアのFCレヴァディア・タリン)。

2013-14シーズン
: UEFAヨーロッパリーグの決勝トーナメントに進出。ブルガリア初。

ルドゴレツはそもそも2001年に創設された新しいクラブであり、2009-10シーズンまではブルガリア4部もしくは3部相当のリーグに在籍していたが、2010年に実業家のKiril Domuschiev(キリル・ドムスキエヴ?)が会長に就任し、一気にブルガリアの強豪に成長したようである。

2010年に2部昇格。2010-11シーズンには初参戦した2部でいきなり優勝して1部に昇格し、2011-12シーズンには初参戦した1部で優勝。2012-13シーズンには2連覇を達成している。


ルドゴレツが使用するスタジアム

Inside World Footballの記事の部分訳)

スラヴィア・ソフィアのVentsislav Stefanov会長は、ルドゴレツ・ラズグラトと共同使用する新スタジアムをソフィアに建設することで、ルドゴレツのKiril Domuschiev会長との間で合意に達した。ルドゴレツは過去2シーズンのブルガリア王者であり、ブルガリア北東部にある小都市ラズグラトでホームゲームを戦っている。

当初、スラヴィアは同じくソフィア首都圏に本拠地を置くCSKAソフィアとの間で共同使用する新スタジアムの建設を計画していたが、CSKAはソフィアの心臓部にある現行スタジアムからの移転を拒否していた。ルドゴレツとの合意から数日後、スラヴィアのStefanov会長は4000万ユーロ(約40億円)を投資する準備があることを明らかにした。


ルドゴレツの現行ホームスタジアムは6,000人収容のルドゴレツ・アレナである。ルドゴレツ・アレナはとてもモダンなスタジアムであり、ブルガリアでもっとも新しいスタジアムのひとつだが、収容人数の関係で欧州カップ戦の試合に使用することはできない。

このため、ルドゴレツは欧州カップ戦のホームゲームをヴァシル・レフスキ国立競技場でプレーしている。このスタジアムはブルガリア代表のホームスタジアムであり、どのクラブもホームスタジアムとして使用していない。また、欧州カップ戦を開催できるブルガリア唯一のスタジアムである。


Domuschiev会長のコメント「(新スタジアムが完成すれば)欧州カップ戦の全試合が新スタジアムで開催されるだろう。UEFAの開催基準を満たすスタジアムは1年以内にブルガリアからなくなってしまうだろうから。そうしたら我々はルーマニアの首都でホームゲームを戦わなければいけない。(中略)イタリアのインテルとACミランはスタジアムを共同使用している良い例だ」

この8月(2013年8月)、ルドゴレツのDomuschiev会長はUEFAチャンピオンズリーグのプレーオフ・FCバーゼル戦をルーマニアで戦わねばならなくなることを恐れていた。ヴァシル・レフスキ国立競技場を使用する予定だった日がロジャー・ウォーターズのコンサートと重なる可能性があったからだ。結局、ファーストレグはスイスで開催された(ため、ルーマニアで戦うことは防げた)。

ルドゴレツのDomuschiev会長はブルガリアでもっとも影響力のある人物のひとりであり、2010年にフォーチュン誌は個人資産を5億ユーロと見積もった。


ルドゴレツのスタジアム
ルドゴレツのスタジアム2
(いずれもルドゴレツ・アレナ)


ブルガリアリーグの外国人選手
ルドゴレツを含めたブルガリアのクラブには近隣の東欧諸国の選手が少ないような気がする。ブルガリアと国境を接している大国にはルーマニア、セルビア、ギリシャ、トルコがあるが、ルドゴレツにそれら4国の選手は1人しかおらず、CSKAソフィアにも1人のみ、レフスキ・ソフィアに至ってはゼロ。逆にアフリカ出身選手が多い。

ルドゴレツの外国人の国籍は、ブラジル(5人)、ポルトガル、オランダ(いずれも2人)、スロベニア、ルーマニア、フランス、スペイン、フィンランド、コロンビア(いずれも1人)の9ヶ国に上る。優勝回数最多のPFC CSKAソフィアは10ヶ国、優勝回数第2位のPFCレフスキ・ソフィアは6ヶ国であるから、ブルガリアリーグ全体が多国籍選手集団なのかもしれない。


ルドゴレツの外国人選手発掘方法
ルドゴレツのブラジル人選手は5人中4人がブルガリアとの二重国籍であり、ブルガリアにルーツを持つことによる二重国籍取得である。ヨーロッパ人の祖先がいない場合はブルガリア国内に5年間居住することで国籍を取得できる。

つまり、ルドゴレツはブラジルリーグの選手の中からブルガリアにルーツを持つ選手を集めていることになる。一方で、CSKAソフィアの外国人選手にブルガリアとの二重国籍者はいない。ルーツの証明が難しいからだろうか。ルドゴレツはブルガリアの国籍法を巧みに活用し、ブルガリア系選手のリクルートに重きを置いていることがうかがえる。


まとめ
資金力のあるKiril Domuschiev会長の就任によって一気に強豪クラブの仲間入りしたことはわかったが、なぜルドゴレツを買収したのかはよくわからなかった。Domuschiev会長は首都ソフィア出身らしいが、ラズグラトとはどのような関係があるのだろう。

ラズグラトとソフィアは375kmの距離があり、欧州カップ戦に地元サポーターの声援は期待できないと思う。ソフィアのサポーターを獲得し、一気に全国クラブ化を図る作戦なのだろう。

ルドゴレツ・アレナは2011年に建設されたスタジアムで、座席数(6000席)は西が丘と同規模。国内リーグは地元の小規模スタジアム、国際カップは大都市の大規模スタジアムでプレーするというのは大胆。ビジャレアルでもホッフェンハイムでもモナコでもアンジでもないやり方には注目したい。

ルドゴレツ会長
(Domuschiev会長)