前回に引き続き『英国の夢 ラファエル前派展』の中編です。

『エレジー』 1888年
フレデリック・レイトン(Frederic Leighton)作
ラファエル前派というよりは「新古典主義」の画家として紹介される事が多いレイトン。代表作としては眠る女性を描いた『燃え立つ六月』が有名です。ノース・ヨークシャー(イギリス)の生まれですが、10代からヨーロッパを転々として絵を学んでいました。ラファエル前派のグループとは1860年、ロンドンへ転居した時に交流があったようです。
柔らかいタッチでどこか夢の中にいるような印象を受けるこの一枚。タイトルの「エレジー」とは死を悼む詩、一般的には悲しみをテーマにした歌や曲の事を指します。彼女に一体どんな悲しみがあるのかわかりませんが、頭に冠っているのが月桂冠だとしたら、ギリシャ神話のアポロとダフネの物語にそのヒントがあるのかもしれません。

『シャクヤクの花』 1887年
チャールズ・エドワード・ベルジーニ(Charles Edward Perugini)作
この展覧会で(個人的に)一番の美人だと思った作品です。タイトルにある器いっぱいのシャクヤクの花の美しさより、それを抱えている彼女の美しさに目が釘付けになってしまいました。美人を形容する日本語に「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉がありますが、彼女はまさにそんな感じの女性でした。
イタリア出身の画家であるペルジーニ(6-17歳の時は家族とイギリスに在住)は先ほど紹介したレイトンに影響を受け、師弟関係にあった画家です。レイトンのスタジオでアシスタントとして働いていたペルジーニは古典的な絵から描き始め、後に肖像画より高く売れる美しい女性や子供といったジャンルの絵を描くようになったそうです。

『テラスにて』 1889年
エドワード・ジョン・ポインター(Edward John Poynter)作
海辺のテラスに少女が一人、団扇に止まった虫を羽根で弄んでいます。透き通った少女の服とそれと同じくらい白い彼女の肌。夏の日差しと瑞々しい葡萄。夏の気怠さと退屈の中で、何てことのない日常の一場面が何故かキラキラと輝いて見えた一枚です。柔らかく透明感のある雰囲気が素敵だなと思いました。
歴史を題材とした大作で名前が広く知られるようになったポインター(パリ出身)ですが、この絵には特定の文学や歴史、地理などの背景があるわけではないようです。彼はいくつもの公職に就いていて(大学教授、アートスクールの校長など)、ジョン・エヴァレット・ミレーが務めていたロイヤル・アカデミーの総裁も彼の死後にポインターが引き継いだそうです。

『《希望》のためのスケッチ』 1877-86年頃
ジョージ・フレデリック・ワッツ(George Frederic Watts)作
イギリスの画家・ワッツの最高傑作と言われている『希望』という絵のために描かれたスケッチ。上の画像はその一部を切り取ったものです(完全なものが見つからず・・・すいません)。本来のスケッチは『希望』と同じ構図で描かれていて、ざっくり言うと本絵をぼやかしたような感じになっています。参考のため下に『希望』の画像も載せておきます。

『希望』 1897年
ジョージ・フレデリック・ワッツ(George Frederic Watts)作
目隠しをされた女性が球体(地球)の上に座り、たった一本の弦をしかない竪琴を弾きながらその音に耳を傾けているという何とも凄まじい光景が描かれています。2つの絵の制作年を見るとワッツが長い間『希望』の構想を練っていた事がわかります。一説によるとギリシャ神話に登場する「パンドラ」から着想を得たとも考えられているようです。
一見すると「何が希望なんだ?」とわからなくなってしまうような雰囲気の絵ですが「その響きから生まれる全ての音楽を聴き逃すまいとしている」という説明を見れば理解できるような気もします。憐れみでも悲しみでもなく、泣きたくなるような彼女の直向きさに私は心を打たれました。
※展覧会で見られるのは「スケッチ」の方ですのでお間違いなく。
後編へつづく