★第8話 試験《2.夜中の電話》 | あまめま*じゅんのスパンキング・ブログ                        

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第1弾 『海の中のアタシ・空の中のアイツ』
双子の海と空のハラハラ・ドキドキの物語♪
第2弾 『星と月美のいい関係』
星と家庭教師の月美&トレーニングの日々!

    愛情たっぷりのおしおき満載(*'▽')

2.夜中の電話

 

『追試』というだけでもかなり落ち込んでいたのに、『追追試』という更なる悪い状況に焦りと苛立ちを感じた。そして帰り際伊吹に言われた「オレが数学教えてやろうか」という謎の言葉がこだまして、海の頭の中は大混乱を招いていた。海があまりにもバカすぎて哀れみを感じ救いの手を差しのべてくれたのか、それともただ単にからかわれているだけで、本当に電話をかけたら「おまえ何まじにしてんの」と冷たく突き放されるパターンなのか。

 

今までの海に対する態度を振り返れば、後者であることは充分に考えられる。もしそんな風におちょくられてしまったらますます意気消沈し、試験に悪影響を及ぼすのは間違いない。明日学校で伊吹と顔を合わせたときの心理状態を思い描いてみた。あまりにもダメージが大きすぎて、伊吹に頼るという甘い考えはきっぱりと断ち切ることにした。

 

それでも、

“どうしてあんなことを平気な顔して言えるんだろう”

という疑問は心に残り、勉強していても集中力が続かなかった。普段から仲がいいわけではない。むしろ海は伊吹のことを嫌っていたし、伊吹だって海のことなんて興味がないどころか、疎ましく思っているはずなのに・・・。

 

ボーッとそんなことを考えていると、ラインの通知音が耳に飛び込んできた。伊吹からのメッセージだった。海は驚いて心臓がドキドキするのを感じた。誰かのことを考えているとき、ちょうどその人から連絡がくるというのは、テレパシーが伝わってしまったかのようでなんとなく気恥ずかしく不思議な感覚に陥った。

 

『勉強してるか?』

すぐに返信したら連絡を待っていたと思われそうで、10分ほど時間をおいてから既読にし、さらに5分後にそっけない返事を送った。

『してるよ』

伊吹からはすぐに返信があった。

『おまえってもっと頭いいと思った。意外とバカなんだな』

 

“何なの!何でこういうムカつくことしか言えないの!!”

頭にきて無視していると、

『オレ2時ぐらいまで勉強してるから、分からないことがあったらラインして』

相変わらずこの男は嫌なヤツなのかいいヤツなのか分からない。冷たいことを言ってからの優しい言葉。わざわざ連絡してきてくれるなんて、本当は面倒見のいいヤツなのかもしれない。

 

『あんたのお世話にはなりませんよー』

と打ちたかったが、とりあえず少しは気にかけてくれてるという嬉しさもあって、

『ありがとう』

と返信した。

 

“変なヤツのことは忘れて勉強しないとまじでヤバイ・・・。明日もしダメなら追追追試になっちゃう。あそこにいた他のみんなが合格して海だけ残ったらどうしよう。あっ、伊吹は3日間試験があるから2人で・・・それはそれで最悪!”

 

勉強しているうちに分からない問題が何問か出てきたが、素直に伊吹に聞くのは気が引けた。相手の術中にはまってしまうようで、海のプライドが邪魔をした。

 

隣の部屋にいる空に『数学分からないから教えて』とラインを送ったが、全然既読がつかず待ち切れず部屋に行くと、空は布団にもぐってコソコソと電話をしていた。どうやら相手は彼女らしく、悠一に聞かれないように警戒していたのだろう。海は諦めて自分の部屋に戻った。

 

“空の役立たず!”

こんな夜中に気軽に電話できる相手がいることを羨ましく思い、伊吹のことが再び頭をよぎった。学校では「電話してきてもいいぞ」と言っていたのに、さっきは『ラインして』だった。別に伊吹と話したいわけじゃないけれど、なぜかイライラして仕方なかった。

 

12時を回っていたので、分からない問題は諦めて寝てしまおうかとも思ったが、もし明日同じ問題が出たら絶対後悔する。海は勇気を出して伊吹にラインを送った。

『問題集の問8教えてほしいんだけど』

なかなか既読がつかず携帯を握りしめ、

“やっぱりやめればよかった・・・”

と後悔した。自分は平気で待たせるくせに、相手から待たされるのはかなりつらく感じた。

 

10分後に返事がきた。

『○△□』

と解答だけが届いたので、

“解き方が分からないんだってば!”

海はほっぺたを膨らませた。今度はもう駆け引きなんて考えず、

『何でこうなるの?』

とすぐに聞くと、伊吹からもすぐに返事がきた。

『打つの面倒くさいから電話してきて』

“は?そっちから電話してくればいいじゃん!”

と思いながらも、

“私から聞いてるんだからしょうがないか・・・”

 

“夜中に好きでもない男子と電話していいの?”

“話しててバカにされてムカついたらどうしよう”

嫌なことばかり頭に浮かんできたが、明日の追追試を突破するため!と意を決してラインの通話ボタンを押した。

 

「よっ」

伊吹の第一声に海は、

「どうも」と小さな声で答えた。

「どこが分かんないんだ?」

「えっ、えっと・・・。」

優しい口調に少し戸惑いながら、

「ここまでは分かるんだけど、そのあとどうしてこうなるのか・・・」

と説明すると、

「ここはこうなって、こうだから・・・。」

 

普段冷たくて上から目線で嫌味ばかり言ってくるヤツなのに、海が理解できるようにゆっくりと丁寧に解説してくれた。途中何度か「分かる?」と確認され、海も「うん大丈夫」というやりとりが繰り返された。1時間ほどかけて分からない問題をすべて教えてもらった。

「ありがとう。助かった。」

「どういたしまして。」

「何でそんなに教えるのうまいの?」

「うまいか?」

「うん。すごくよく分かった。」

「オレ、塾でバイトしてるから。」

「そうなんだ。」

「小学3年生相手にしてるから、おまえにちょうどいいんじゃないか?」

「は?」

「レベル的に。」

「・・・・・」

 

“いいヤツだと思ったのは撤回する。やっぱり超ムカつく!”

「あっ、それから貸し3つ目だから覚えとけよ。」

「えっ?」

「前の分もまだ清算してないからな。」

「何、清算って?」

「もう少したまってから考える。」

「そんなにたまらないから。」

「そうか?10ぐらいは余裕でいくんじゃないか?」

「そんなことないからっ!」

 

海が思わず大きな声を出したせいか、悠一の部屋のドアが開く音が聞こえた。

「あっ、ごめん。お兄ちゃんに見つかるとうるさいから切るね。ありがとう。」

海はそう言うと一方的に通話を終了した。夜中の1時過ぎまで電話していることがバレたら、ものすごい剣幕で怒鳴られるだろうし、おしおきも免れないだろう。その相手が男となれば関係性や話の内容などをとことん追求されるに違いない。

 

悠一は海の部屋には立ち寄らず、トイレに行っただけで自分の部屋に戻って行った。

“あんな切り方しちゃって悪かったな・・・。もっとちゃんとお礼言うべきだったよね・・・”

少し後悔したが、

“明日学校で会ったときに言えばいいか”

伊吹から教えてもらった問題をもう一度自分で解いてから寝ることにした。

 

部屋の明かりを消してベッドに横になると、隣の部屋からまだコソコソと話し声が聞こえてきた。

“空ってばまだ舞ちゃんと電話してるの?お兄ちゃんにも聞こえてるんじゃないの?もうすぐ2時なのにバカだよね”

『いつまで電話してるの!早く寝なさい!』

お母さん気取りでラインを送ってから眠りについた。

 

 

翌日の放課後、追追試が行われた。昨日10人いた男子は3人に減っていた。彼らは「あの女、またいたぞ」と余計な噂を流すのだろうか。あとから教室に入って来た伊吹は、また昨日と同じように海の近くに座った。昨日のお礼を言おうと思っていたが、1日その機会を逃していて、今もまた話しかける前に先生が入って来てしまった。ひとこと「昨日はありがとう」で済むことなのに・・・。

 

学校での伊吹は昨夜の優しくて面倒見のいい伊吹とは別人のようで、海にとっては近寄りがたい存在だった。それは海の一方的な感じ方なのかもしれないが、気軽に話しかけられるクラスメイトの1人ではなかった。男子友達の間では誰とでもバカ騒ぎしているし、他の女子の間でも「伊吹は優しい」と高評価なのだが、海と伊吹との間には不思議な空気が漂っているような気がした。

 

今日の試験官は今まで見たことのない強面の50代くらいの先生だった。たぶん他の学年の先生か事務の先生なのだろう。試験が始まり、海の手は1問目から止まってしまった。

“こんな問題、問題集にあったっけ?”

難しい問題は昨日の電話でマスターしていたのに、チェックしていなかった初歩的な問題が出題されてしまった。数学の先生としては今度こそ合格できるようにと考慮してくれたのだろうが、それが裏目に出てしまった。やはり基礎からしっかりと身につけることが重要であり、その場しのぎの勉強では通用しないということだろう。

 

昨日伊吹に教えてもらった問題は最後に1問だけ出題されていて、それに関しては完璧に解答できたのに、全体的に見ると半分ぐらいしか自信がなかった。

“これじゃあまたダメかも・・・”

焦れば焦るほど思考回路が乱れていってパニック寸前。藁をもつかむ思いで、ペンケースに入っていた付箋に『SOS』と書いて、斜めうしろに座っている伊吹に渡した。そんなメッセージを送ったところで、伊吹は別の試験を受けているのだからどうすることもできないのに。

 

試験官の先生の目を盗んでこっそり渡したつもりだったのに、海がチラッとうしろを向いた瞬間、すかざず先生が海に鋭い視線を向けツカツカと近寄って来た。それを見た伊吹は、

「先生」

と言って手を上げた。

「どうした?」

「蓮ケ谷さんが僕にこれを渡してきました。」

海が書いた『SOS』の付箋を先生に手渡した。

 

“えっ?何で?信じらんない!”

海は伊吹の発言に絶望し、机に顔をうずめた。

“ひどい!何で告げ口するの!サイテー!!”

 

「何だ?SOS?カンニングか?」

先生は海の前に立つと、

「蓮ケ谷、顔上げろ。」

と言って海を睨みつけた。

 

 

つづく