☆第42話 職場体験《1.ハプニング》 | あまめま*じゅんのスパンキング・ブログ                        

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第1弾 『海の中のアタシ・空の中のアイツ』
双子の海と空のハラハラ・ドキドキの物語♪
第2弾 『星と月美のいい関係』
星と家庭教師の月美&トレーニングの日々!

    愛情たっぷりのおしおき満載(*'▽')

1.ハプニング

 

1月半ば、あおいろ中学の2年生では職場体験が行われる。星は市立病院へ2日間行くことが決まっていた。地域密着性を重要視している市立病院では、ここ5年間、毎年中学生の体験を受け入れている。

 

当日の朝、実習する診療科目が言い渡されるのだが、星はクラスの友達、大和(やまと)と一緒に内科に割り振られた。星たちの面倒を見てくれるのは、お馴染みの看護師の坂本さんだった。

 

まず始めに顔合わせが行われた。悠一ともう1人の医師、星と大和、そして看護師のお姉さんたち数名があいさつを交わした。悠一は、自己紹介する『一之瀬星』という名前を聞いて驚いた。星もまた、珍しい『蓮ケ谷』という名字を聞いて、ハッと目を見開いた。

 

“これが例の一ノ瀬星か!”

“うわぁー!海のお兄さんだ・・・。”

 

お互いの動きが一瞬ピタリと止まり、数秒間見つめ合ってしまうほど衝撃的な出会いだった。とりあえずその場ではどちらも何も言い出さず、看護師長が1日の流れを説明するのをジッと聞いていた。

 

学校にも何度か健診で訪れているので、悠一が医者であることは知っていたが、勤務先までは把握していなかった。前もって分かっていれば、星はここを実習場所に選択することはなかっただろう。

 

大和は第一診察室へ、星は悠一の第二診察室に入った。診療開始まで10分ほど時間があったので、悠一は星を患者さん用のイスに座らせると、

「星くん、初めまして。先生のこと、知ってるかな?」

「はい。」

星は悠一の目をしっかりと見て答えた。

「蓮ケ谷空先輩のいとこのお兄さん。」

「そう、正解。それから?」

 

「えっと・・・海の・・・」

『空』の名前を出したときとは違って、口ごもるように小さな声で答えた。そして自ら、

「果たし状・・・。」

とつけ加え、恥ずかしそうにうつむいてしまった。

 

「あれを見たとき、もっと強そうな感じの子を想像したけど、ちょっと違ったな。」

「あの・・・、怒ってますか?」

星は恐る恐る尋ねた。

「あっ、いや、怒るというより、興味深いね。」

「えっ?」

言われている意味がよく分からず、星は首を傾げた。、

 

“何てかわいらしい子なんだ!”

悠一はほんの少しの会話で、星のことをそう判断した。

 

空のような冷めてひねくれたところはないし、海のような調子がよくてあざとい感じもしない。この年代の男の子に対して『かわいらしい』というのは失礼な気もするが、第一印象としてはそれが一番しっくりくる表現だった。

 

あの荒々しくぶっきらぼうな果たし状を書いたのが、今、目の前にいる少年だとは思えないくらい、優しくふわぁっとした雰囲気をかもし出していた。悠一はもっと話していたかったが、時間になってしまったので続きはお預けとなった。

 

 

常連さんで気心の知れた患者さんには、

「中学生が実習に来ているので、見学させてもらっても大丈夫ですか?」

と聞いてくれて、許可が出れば、星は悠一が診察する様子を見学させてもらうことができた。困ったことにそういう場合、問診よりも星の話題で盛り上がり、まったく診察が進まなかった。

 

「中学は楽しいか?」

「部活は何やってる?」

「蓮ケ谷先生には気をつけろ。」

挙句の果て、「好きな女の子のタイプは?」だとか、

「彼女はいるか?」だとか、

『恋愛事情』まで聞き出され、星は照れくさそうにしながらもていねいに質問に答えた。

 

ほんわかとした診察が3人続き、次に星のおばあちゃんと同世代の女性が入って来た。

 

悠一はまず、星の見学の了承を得てから、

「毎日寒いけど大丈夫?」

彼女を気遣って、心配そうに声をかけた。それから、キリッとした真剣な顔になって、

「宮田さん、お薬1か月前に終わってると思うけど、もっと早く取りに来れなかったの?」

今度は問い詰めるように質問を投げかけた。

 

「まだ残ってたので。」

「毎日ちゃんと飲んでなかったってことかな?それじゃダメだって、いつも言ってるでしょ?」

悠一が叱りつけるように言うと、

「これから気をつけます。」

しょんぼりと悲しそうな顔をして答えた。

 

聴診したり血圧を測ったりして診察を終えると、

「毎日きちんと飲んで、次回は1か月後に忘れずに取りに来てくださいね。決められたお薬を飲まないで調子が悪くなっても、知りませんからね。」

「はい分かりました。どうもありがとうございました。」

 

頭を下げてイスから立ち上がり、入口の近くに立っている星に、

「また怒られちゃった。蓮ケ谷先生厳しいのよね。」

苦笑いしてそれでもどことなく嬉しそうに、坂本さんにつき添われて診察室から出て行った。

 

 

悠一はカルテに記入し終わると、マイクで次の患者さんの名前を呼んだ。小学校5、6年生ぐらいの女の子とお母さんが入って来た。悠一はカルテを見て、

「星くん、奥に行ってて。」

と言って星を診察室から追い出した。見学できないときは裏にまわり、検査の手伝いをさせてもらったり、器具の使い方などを教えてもらった。

 

坂本さんがカチャカチャと注射器を用意していた。

“あの子、注射するのか。”

星は太い注射器を見て、

“痛そうだな・・・。”

と何気なく思っていたが、診察室の方から、悠一の『お尻』という言葉が聞こえてきた。

 

“えー!さっきの女の子、お尻に注射されちゃうのか。だから僕、見せてもらえなかったんだ。”

 

星は今まで一度も、お尻の注射を経験したことがなかった。2~3年前に妹と一緒に病院に行ったとき、妹だけお尻に注射されてギャーギャー泣き叫んでいたのを見て、自分はホッとしたのを覚えている。そのときの光景は今でも鮮明に思い出す。

 

「星くんは薬飲めるよね?」

とお医者さんから聞かれて、本当は薬は苦手だったけれど、「飲めない」と言えば間違いなく自分も同じ運命をたどることになると思い、必死に「飲めます」とごまかした。

 

「いつも薬飲むの大変だから、星も注射してもらえば。」

とんでもないことを口走る母親をにらみつけ、先生がそれに同意する前に慌てて首を振ったのを覚えている。母親なんていざとなると白状だ!という現実も思い知らされた。

 

ベッドに寝かされてお尻をスッポリと出され、暴れる手足を2人がかりで押さえつけられている妹はとてもかわいそうだった。どんなに抵抗しても大人の力にかなうはずもなく、「注射」と宣告されてしまった時点であきらめなければならない。

 

“自分じゃなくてよかった。”

という気持ちで、星はその一部始終を眺めていた。そんな情けない姿を母親はまだしも、生意気な妹や看護師さんに見られてしまうのは屈辱的だったに違いない。

 

そしてそのとき、心に決めたことがある。

“もし自分がそういう状況に追い込まれたら、覚悟を決めて潔く成り行きに従おう。”

その方が断然、惨めじゃない気がしたから。

 

そんなことを思い出していたら、診察室から、

「痛いよー!」

という泣き声が聞こえてきた。お尻の注射って筋肉注射だから、ものすごく痛いと聞いたことがある。星は注射の痛みは分からなかったが、おしおきされたときのお尻の痛みを思い出し、

“あの女の子、かわいそうだな・・・。”

と同情した。

 

“でもおしおきは数えきれないくらい叩かれて、お尻全体が強烈に痛いけど、注射は1回チクッとするだけだから、絶対におしおきの方がつらいはずだ!”

 

心の中で豪語して、勝った気分に浸っている星くん・・・そんなところで競いたいのなら、一度お尻の注射も体験してみて白黒はっきりさせるべきなのでは(笑)

 

 

そのあとも休みなく患者さんが続き、やっと午前中の診察が終わった。午後は病棟を案内するから、1時間後に診察室に集合するように坂本さんに言われた。

 

星たちは持参したお弁当を会議室で食べた。星は食べ終わると、「トイレに行く」と言って会議室を出た。少し外の空気を吸おうと思い、1人でブラブラと正面玄関を出ると、バス停のベンチにさっき内科の診察に来ていたおばあさんが座っているのが見えた。薬のことで悠一から注意されていたおばあさんだ。

 

少し様子を見ていると、バスが来て乗り込んで行ったのだが、出発したあとベンチにはビニール袋が残されていた。星は気になって行ってみると、その袋の中には大量の薬が入っていた。薬袋には『宮田様』と名前が書いてあった。

 

“これ、さっきのおばあちゃんの薬だ。せっかく薬をもらいに来たのに、こんなところに忘れて行ったらまた先生に怒られちゃうよ。”

星はどうしたらいいか考えた。

 

本来なら病院の受付に持って行って事情を説明すればいいのだろうが、もしかしたら次の停留所で気づいて戻って来るかもしれない。それならこのままベンチに置いておいた方が楽だろう。でも誰かに持って行かれてゴミ箱に捨てられてしまうかもしれないし、ずっと放置されて雨でびしょ濡れになってしまうかもしれない。

 

ゴチャゴチャと考えていたがまとまらず、とにかくバスを追いかけることに決めた。このあたりはバス停の間隔が近いし信号も多いから、次のバス停までには追いつくだろうと安易に思ったが、少しの差で間に合わずまた次のバス停目指して走り続けた。

 

ハァハァ息を切らしながら全速力で追いかけ、さすがに陸上部だけあって何とか追いつくことができた。運転手さんに事情を話すと、さっきのおばあさんが慌ててやって来てバスから降りた。申し訳なさそうに薬を受け取り、

「ありがとう。」

と何度も頭を下げられ、星は照れくさそうに首を振った。

 

おばあさんがバスから降りたので、星はてっきりこのバス停で降りる予定だったと思っていたら、まだあと20分ほどバスに乗るらしい。星に悪いと思っていったん降りてくれたようで、次のバスが来るのは15分後だった。

 

「届けてくれたお礼に。」

と言って自動販売機でジュースを買ってくれて、おばあさんはもう一度ていねいにお礼を言うと、

「早く戻って。」

と星を気遣ってくれた。このまま1人にしてしまうのは何となくかわいそうな気がしたし、また薬を忘れたら大変だという思いも重なって、

「次のバスが来るまでここにいます。」

と2人でバス停のベンチに座っておしゃべりを始めた。

 

おばあさんは1人暮らしで、

「ヤンチャな猫を1匹飼っているから、お世話と動物病院通いが大変なのよ。」

と嬉しそうに話してくれた。何とその猫の名前は『月ちゃん』!

星は「えっ?」と聞き返し、もちろん星の頭の中にはネコ耳をつけた月美先生が現れた。

 

星はあおいろ中学の2年生で陸上部に入っていて、週1回トレーニングと家庭教師を兼ねたヒップハートというところに通っているという話をした。

「だからお兄さん、あんなに足が速くて、バスに追いつけちゃうのね。」

と言われ、またまた星は照れ笑いを浮かべた。

 

話をしていると15分なんてあっという間に過ぎ、バスが来ておばあさんは手を振ってバスに乗り込んだ。星はとても温かい気持ちになって、手を振ってバスを見送った。

 

言うまでもなく、星はそのあと急に焦りを感じ、時間を確認すると・・・。

 

 

つづく

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