2.おしおき部屋へ
職員室の隣の生徒指導室、みんなは『おしおき部屋』と呼んでいる。
担任のたかやんと生徒指導部の先生と怜伊と海の4人。
「君たち、まだ入学してから1か月も経たないのに、緊張感が足りないんじゃないですか?」
と厳しそうな生徒指導部の先生に言われた。2人とも下を向いたままじっとしている。
「怜伊、どういうことか説明してくれ。」
とたかやんが言うと、
「えっ、あの・・・私が悪いんです。海の家のことで、海を怒らせるようなことを言っちゃって。それで、ほっぺた叩かれて、私がワァーって泣いちゃったから・・・。海、本当にごめんね。」
「そうなのか、海?」
「・・・・・」
「黙ってたら分かんないだろ。ちゃんと自分の意見を言え。」
「怜伊にきついこと言われて、悔しくて、カーッとなってぶっちゃいました。ごめんなさい。」
「それじゃあ2人とも納得して、反省できてるんだな?」
女子の間ではよくある、他愛もないケンカ。まわりが気をもむのもアホらしいぐらい、またすぐにキャッキャッと仲直りするやつ・・・。
「じゃあ怜伊は帰っていいぞ。これからは友達を傷つけるようなことは言わないように。」
とたかやんに注意され、スカートの上からお尻をパーンと1発叩かれて終了した。
部屋に残された海。
“そうだよね。ケンカだけなら、ここで「よし」って言われて帰れたんだよね。今ごろ部活に合流して、いつもの生活に戻れたのに・・・。でも私、学校から逃げ出しちゃったんだもんね・・・。この後どうなるんだろう?怜伊と同じ1発だけじゃ済まされないのは確かだよね。”
たかやんが生徒指導部の先生に
「後は私から厳しく言って聞かせるので、先生は戻っていて下さい。」
と言って、部屋には怖い顔をした担任兼部活顧問のたかやんと、これから何が起こるのか不安で仕方ない海の2人きりとなった。
「海、おまえ何で逃げたんだ?ちゃんと話せば、すんなり解決する問題だったんじゃないのか?確かに先に手を出したのはおまえの方で、それに関してはきっちり叱らなきゃいけないと思うが、逃げ出すっていうのはもっと罪を重くしてるんだぞ。なあ分かるだろ?そのくらいのこと。」
「はい。」
「心配かけさせんなよ。」
「ごめんなさい。」
たかやんは、腕時計をチラチラ気にしている。
「そろそろかな?」
「えっ?」
ちょうどそのとき、トントンとドアをノックする音がした。
「はい、どうぞ。」
「すみません、遅くなって。」
「ゲッ、お兄ちゃん、何でいるのよー。」
すかせず、たかやんに頭をボコッと叩かれ、
「あたりまえだろ。おまえが今日やったことを考えてみろ!保護者呼び出しは当然だ!」
海がしょんぼりと下を向いて、指をモジモジといじっていると、
「高也先輩、本当に今日はご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
と言って、悠一は頭を深く下げて謝った。かと思うと、ツカツカと海の所にやって来て、
「このバカがっ!」
と言って、思いっきりお尻をパーンと叩きつけた。
「いったー!」
「まあまあ悠一、落ち着け。これから話を聞いてもらって、その後でじっくりと反省させようと思うんで、まあ座ってくれ。」
「先輩と久しぶりの再会だっていうのに、このバカのせいでこんな事態になってしまって、本当にすみません。」
「ああ。オレももっと普通の関係で会いたかったけどな。」
たかやんから今日の状況を説明され、悠一の顔はどんどん険しくなっていった。
“あーあ、お兄ちゃん、絶対にすごーく怒ってる顔だよね・・・。何て言えば許してもらえるんだろう?ひたすらごめんなさい作戦がいいのかな?それとも、泣き落とし作戦にする?”
2人の話なんて上の空で、おしおきが軽くなる方法を頭の中でいろいろと考えていると、
「おい、海、聞いてんのか?」
とたかやんににらまれた。
「あっ、はい。」
「今オレが何て言ったか言ってみろ。」
「・・・すみません。分かりません・・・。」
「なー、悠一。こいつまったく反省してないんだよな・・・。」
「えっ、反省してます。すごく反省してるから許して下さい。」
という海の意見には耳を傾けてもらえなかった。
「ということで、ここでおしおきさせてもらおうと思うので、保護者の方の承諾をいただきたいのですが。」
“何たかやん、ふざけたこと言ってるの?”
「はい。ぜひ厳しく叱ってやって下さい。」
「お兄ちゃん、やだっ。お兄ちゃんの前でおしおきされるなんて、絶対に無理。先生、お願いします。お兄ちゃんのいない所でして下さい。」
半べそかきながら必死にお願いしたのに、聞き入れてはもらえなかった。
「おまえがどれだけ悪いことをしたか、オレがどれだけ怒っているか、ちゃんとお兄さんにも分かってもらわないといけないからな。」
「本当に無理だってば・・・。」
たかやんには、入学式から今日までの間に2回お尻を叩かれた。ついこの間、部活で集合時間に遅れて3発。これは結構痛くて、洗礼を受けた気分だった。
そして、おとといの数学の時間に、ベランダに遊びに来ていた2羽のスズメをボーっと眺めていて注意されたときに1回。これはパーンと1発叩かれただけで全然痛くはなかった。ただ、クラスのみんなの前で「スズメがいちゃいちゃしてるのが、そんなにうらやましいのか。」
と言われクラス中が大爆笑したことで、恥ずかしさのあまり海は顔を真っ赤にしてうつむいた。
今日は前回のように軽く済むはずはない、ということはおしおきが始まる前からよく分かっていた。
「よし。じゃあ、そこの壁に手をついてケツ突き出せ。本来ならオレのおしおきはケツ丸出しで叩くんだが、今日は悠一の前だから特別パンツは脱がなくていいからな。」
“そんなこと、わざわざ言わなくていいじゃん・・・。”
海は悠一の方を見て、
“お兄ちゃん、助けてー。”
と目で訴えたけれど、腕を組んでキッとにらみ返され、無言でクイッと顎を動かして「早くしろ」の合図を送られた。
“そうだよね。助けてくれるはずないよね。お兄ちゃんもそっち側の人だもんね・・・。ちょっとでも期待した私がバカでした。”
仕方なく、言われたとおりの姿勢をとると、
「スカートまくって、もっと頭を下げて、ケツを後ろに突き出せ。」
目をギュッとつぶって、壁を押さえている手に力を入れて、1発目がくるのを待った。
バッシィーン。
何も言わずにいきなり叩かれた。スパッツの上からでも充分に痛い。強烈な力で
バッシィーン、バッシィーン、バッシィーン・・・。
と続けて叩かれ、いつ終わるのか何回叩かれるのか全然分からない。
“お尻痛ーい!もう耐えられない。お願いだから終わりにしてー。”
と心の中で叫んでみても、一向に終わりにしてくれる気配はない。それだけ、たかやんは怒っているということなのだろう。
「もう絶対にしません。」
「すごく反省してます。」
「ごめんなさい。」
という言葉が自然と口から出るようになると、たかやんの手が止まった。
「終わりだ!」
壁から手が離れ、ズルズルと床に倒れ込んだ。
「明日までに反省文書いて提出するように。悠一と話があるから、外で待ってろ。」
お尻を押さえながら、のろのろと立ち上がって、「さようなら。」と涙声であいさつをして廊下に出た。
「目の前で見てるの、辛かったんじゃないか?」
「いえいえ、もっと思いっきりやってもらってよかったんですよ。」
「悠一、相変わらず厳しいな。でも、海にとっては本格的なおしおきは初めてだったからな。少し様子見だ。実はな、友達とケンカした原因っていうのが、家のことを言われたらしいんだ。詳しくは聞いてないが、海なりにいろいろと悩んでるのかもしれないから、そのへんはフォローしてやってくれよ。」
「はい、分かりました。あいつ能天気に見えるけど、結構溜め込んでしまうようで、とんでもない方向へ発散させるから危なっかしくて・・・。」
「そうだよな。今日もまさか学校から脱走するとは思わなかったもんな。今日はケツ痛いだろうから、家では軽めにしてやれよ。」
「ハハハ、そうですね。だいぶ痛そうでしたよね。でもオレもかなり怒ってるんで、それなりにやるつもりです。本当にご迷惑をおかけしました。」
「ああ。ほどほどにな。」
つづく