この時期としては珍しい三部制の歌舞伎座。とはいえ内容はかなり変化球で、第一部は超歌舞伎×初音ミク、第二部は女優出演(宝塚に男優が出るような感覚)、第三部にはバレエ風のダンスやアクロバットまで登場。なかなかの“色物揃い”です。
そんな中で、あえて選んだのは、そのすき間にひっそり挟まれている古典作品。一幕見席も、ひと昔前は1000円前後の感覚でしたが、最近はずいぶん値上がりして正直お得感は薄め。ただ、前日から予約できるので、「そうだ、歌舞伎を観よう」と思い立ってふらっと寄り道できる気軽さは、やはりありがたいところです。
【あらすじ】
命からがら生き延びた末に、生き別れになってしまった若い恋人・お富と与三郎。 数年後、思いもよらぬ場所で二人は再会します。しかし、お富にはすでに“身を寄せる相手”が…。 突然現れた元恋人に、与三郎は嫉妬と未練で胸がいっぱい。 「もう俺のことなんて忘れたのか」と拗ねる与三郎。 「でも、あなたに会えてしまったら…」と揺れるお富。ところが物語はここから大きくひっくり返る。 なんと、お富を庇護していたその男は――お富の“実の兄”だったのです。誤解が解けた瞬間、二人の心は一気に元の場所へ。 「生きていてくれてよかった」「また会えてよかった」 そんな想いが交差し、ついに二人は再び結ばれることに。
玉三郎のお富は、さすがに滑舌の衰えは否めず、75歳という年齢を思うと老いを感じる瞬間もあります。どこか黒柳徹子を連想させるような雰囲気もあって、かつての“花形女形”のイメージとはずいぶん違う。でも、それが不思議と楽しい。若さゆえの「美」は薄れても、経験を重ねたからこその説得力と、人を引きつける力がある。いわば“いい女”になったお富でした。
染五郎の与三郎と並ぶと、その対比がより鮮明です。染五郎は腕も脚も線が細く、大御所の相手役としてはどこか不安定さが残る印象。その分、まだ成長途中の若者らしさが際立ちます。それでも堂々とラブシーンを演じるので、なぜか最後に大笑いで幕。
この二人の組み合わせから、ふと森光子を思い出したりもして。大御所がたどり着く境地というのは、ジャンルを超えてどこか似てくるのかもしれません。“おばちゃん”だからこそ生まれる会話の求心力、そのあたりがさすがだなと感じました。
【出演】
お富:玉三郎
与三郎 :染五郎
蝙蝠の安五郎 :幸蔵
番頭藤八 :市蔵
和泉屋多左衛門 :権十郎
18:10-19:05


















