海外の有名美術館からのレンタル作品を展示する、いわゆる特別展ではなく、持ちゴマで魅力的な展覧会を学芸員が企画するのがアーティゾン美術館の特徴(例外もあるけど)。同じ作品でも見せ方が違うと受け取る印象が違うので、リピートもまた楽し、です。
・どこにどう飾る? とか
・アーティストとしての作品はコレだけど、アートファンとして購入していたのはコレ とか
・額縁もちゃんと見てる? とか
今回は解説も攻めていて、素人でも面白い展覧会でした。美術品って今でこそ美術館で見る物となっていますが、もともとはお屋敷の建具だったり、プライベートな部屋に飾るためのものですからね。展示されている作品がどのような状況で生まれ、扱われ、受け継いでこられたのか……また美術展に足を運ぶ際の楽しみ方が増えました♪
1. 祈りの対象
ヨーロッパの教会ってどこか恐そうな彫像が多いけれど、日本の仏像はどこかフレンドリー。お笑い芸人さんみたいで、こんな仏像だったら「おはよー。ちょっと聞いてください!」と気軽に立ち寄れそう。日本の宗教…好きです。
2. 依頼主と
次の展示室に入ると中央にドーンとダイニングテーブルが。どうやら、ダイニングルームのインテリアを意識しているようで、壁には冬~春~夏~秋の4枚の絵が。「四季」というと日本の専売特許的な文言を目にすることがあるけれど、イタリアにだって(ヴィヴァルディ)、ブエノスアイレスにだって(ピアソラ)四季はあるんですよね。欧米の邸宅のリビングルームだとしかめっ面の肖像画がかざあっれているイメージですが、「飯が不味くならない」ためにも四季の絵、それも農業の絵はピッタリですね。
冬
春
夏
秋
3. 持ち主の存在
今回の展覧会、絵の解説なのに「この作品の持ち主は」という面白い視点での解説が。そういえば、この絵、ピカソの「サルタンバック」という作品ですが、ピカソが、というよりも、ホロヴィッツのリビングに飾られていた絵!という印象が強い作品。ホロヴィッツは絵画好きで有名でしたけど、インスピレーションが必要なピアニストのリビングに、想像力をかき立てるアート作品たちって相性が良いのかもしれません。
4. 建物の一部
一方、日本はというととてもシンプル。和室ってミニマリストの極みですよね。てっきりマネキンが飾られているのかと思ったら「襖に近づきすぎるとセンサーがなるので注意だけど、畳に上がってOK」とのこと。無粋にロープをはったり、べっとりラインを引いたりすることなく、その距離は観客に任せるという信頼関係が嬉しくて、近づいてOKなのについ遠くから鑑賞しちゃいました。
して、どんなアートが飾られているのかというと……
ワンコです!
イッヌ派にはたまりません。そりゃ、畳の上でゴロゴロと、しばらく眺めていたくなりますわ。
5. My favorite place
と、このあたりから学芸員さんの暴走が始まります。アート作品をお行儀よく並べるのではなく、もし自宅に飾るとしたらどんな作品をどこに飾る?とばかりに、美術館の中がIKEAのショールーム状態に。でも、こうして生活感を加えた途端、作品に命が宿るような気がしませんか? 高価な美術作品でなくても、たとえばポスターだったり、ちょっとした草花だったり、「必要じゃないけれど生活を豊かにするってこういうことだよな」と楽しい気分に。
こちらのダイニングテーブルだけ着席OK。
6. 場
ここからはさらに学芸員さがパワーアップ。なんと、作品や作者ではなく持ち主についての解説が始まるのです。
左の絵を描いた人が持っていたのは右の絵
風神雷神を題材とする青邨は宗達の絵を持っていたり
もともとは旦那さんが妻を描いてもらったプライベートな作品なんですけど、三越のポスターにも使われたという絵。
こちらルノワールの「シャルパンティエ嬢」。こういった作品は個人宅のサロンに飾られていたんでしょが「館の様子がうかがえる写真もあるのですが、残念ながら使用許可が取れませんでした」という無念極まる解説が添えられていました。悔しさが伝わってくると同時に、誰よりも学芸員さんが楽しんでいるのがわかります♪
マネの自画像で、所有者は松方幸次郎。美術館構想を持っていた人物ですね。生前は実現しなかったけれど、国立西洋美術館として松方コレクションは今、私たちが楽しんでいます。
船で移動していた時代、購入したオーナーよりも先に日本に届いたというセザンヌの作品。と、主がいない家を訪れ見せてもらったって、今だったらドン引きされる行動💦 思いの強さってことで処理してましたけど、それで・・・ええんか?
さて、ここからのメインは「額」です。アーティゾン美術館所有の作品は多々あれども、やっぱり頻繁に目に入る印象的な作品もあるのですが、あえて鑑賞者の関心を枠に持っていこうとする、、、なんて素敵な思い付き!
自分で作る人もいれば、お金はないけれど立派な額を依頼する人も。
この作品にフリルのついた花の装飾の額は似合わない!
こちら、シンプルなピカソ額。
お洒落なインテリアショップで取り扱っていそうな白い額。当時のヨーロッパではきっと斬新。
枠をたくさん見ていると、携帯と携帯カバーの関係に思いを馳せることも!
ルイ13世様式の枠。一番外側は連続する葉の文様。
ルイ14世様式。幅が広く装飾文様が複雑に。
ルイ15世様式。曲線的で立体的な堀。四隅と中央の丸みのある文様は貝殻とのこと。
ルイ16世様式のシンプルな枠。
正直な学芸員さんから「イタリア様式を紹介したかったけれど、適当なものがなく、少し似た感じのものでお許しください」とのコメントが!
こちらはスペイン様式。重厚感と四隅の文様が特徴。
こちらもスペイン様式。なめらかな堀と黒漆の使用が特徴。
オランダ17世紀頃のデザイン
イギリス18世紀中ごろのデザイン。取扱が大変な繊細な掘りが特徴。
野見山暁治の作品。「裸でよければ、服も着ないし。なくても良いなら、額は付けない」なるほど。
さて、最後はオリジナルの額がない作品のためにアーティゾン美術館が用意した額の数々。あっちが合うかな、こっちが合うかなと学芸員さんがニヤニヤしながら選んでいるのではないかと勘ぐってしまいます。解説に楽しさが溢れていました。
アーティゾン美術館が多く所蔵している古賀春江の作品。ただ、彼女の場合はオリジナルの額に入っているものは少なく、学芸員さんが作品にフィットする額を調達!
牛島憲之が考案した額のデザインを元に新調したもの。
藤田嗣治の作品ですが、こちらも美術館で作ったもの。それも二代目。より絵に合うものをと新調したそうです。着た切り雀じゃないんですね。
経年経過で脆くなった額はお取替え。絵の本体よりも額の方が脆い!?!?
オリジナルの額が見つかって、別の額を使っていた作品が納まる場所に納まるケースも。ちなみに、この作品、坂本繁二郎の「帽子を持てる女」というタイトルなのですが、私には西城秀樹に見えます💦
元々ガラスが入っていなかった額に作品を保護するためガラスを入れようとすると額の強度が足りないためレプリカを作成したそうです。ガラスが入ってない=むき出し、さらにガラスを支える強度がない額に額としての存在意義があるのかはちと疑問w
さらに、展示の内容によって額を変えることもあるんだとか。
さて、最後の最後に問題提起。
そういえば、マティスのコーナーは今回の展覧会っぽい解説じゃなかったんだな、と思いながら、せっかくなのでマティスのコーナーに行ってみて「額だ!」と。まさかの謎解きを美術館でチャレンジすることになろうとは!!!
【展示構成】
1. 祈りの対象
2. 依頼主と
3. 持ち主の存在
4. 建物の一部
5. My favorite place
6. 場
空間と作品
【会期】
2024年7月27日[土] - 10月14日[月]
【開館時間】
10:00ー18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
【休館日】
月曜日(8月12日、9月16日、9月23日、10月14日は開館)、8月13日、9月17日、9月24日
【主催】
公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館
【協賛】
【会場】
6・5・4階 展示室
【入館料 (税込)】
1200円(ウェブ予約)、1500円(窓口販売チケット)
大学生、専門学校生、高校生 無料(要ウェブ予約)
中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名 無料(予約不要)