第70回 定期オペラ公演『フィガロの結婚』@東京藝術大学 奏楽堂 | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 藝大が底力を見せました。学生オペラのレベルを超えた素晴らしい公演です。アマチュアでここまでやられちゃうと、セミプロな新国オペラ研修所の面々、来春の公演に向けてものすごいプレッシャーを与えられたのではないでしょうか。

 

 初日を見た友人曰く「マルチェリーナの息子で新婚さんだから実は若造なんだよね!」とのことですが、なんのなんの、アルマヴィーヴァ伯爵とロジーナだって結婚して大して立ってないし(アラサー設定?)、フィガロとスザンナ、言われてみれば大学生くらいの年齢なんですよね。そう思って見ると、フィガロって頭は切れるけれど、時にツメが甘かったりするし、アルマヴィーヴァはまだ性欲むんむんだし、たぶん、ケルビーノは高校生くらいかな。となると、音大オペラで演じる年代がベストって訳です。もちろん、男声はみなさん低音がカッスカスとか、重唱が和音にならないとか、プロのオペラ歌手にはまだまだのメンツもいるんですが、そんなことを気にしない、勢いがあるプロダクションでした。役へのなりきりに関しては、中高年によるキャスティングと違い、役者歌としてオペラをねじ伏す勢いがありました。この勢いがあってこそダ・ポンテの世界観なのかもしれません。歌手でひときわ良かったのが伯爵夫人:北見エリナ。一人だけ別格。声は飛んでくるし、伯爵夫人としての位取りは見事だし、さらには夫に愛されず女中に頼らなければならない女の哀愁まで漂わせて、このまま二期会公演でも通用しそう。

 

 藝大の奏楽堂はコンサートホールなので、舞台袖もなければ、そもそもの舞台が小さいのですが、それを逆手にとった演出でした。間口を8m位に狭め(クリエでオペラを見ているみたい)、1幕+2幕は白をベースとしたカーテン多用し、ドアと窓と椅子位しかない装置、3幕+4幕は黒をベースとし、ひな壇のような大道具か、簡素な噴水の装置のみ。決して華やかではないし、簡素なんですが、どこかの劇場の「段ボールフィガロ」と違って「これで十分」と思わせるオーソドックスな舞台。ステージの小ささに対し、合唱団の人数がやたら多いのはご愛敬(学生たち出さないといけないものね)。

 

 それにしてもモーツァルトって天才ですね。序曲でワクワクさせたかと思うと、その後はジェットコースターのように、ソロも重唱も飽きさせることなく最後まで突っ走ります。ダ・ポンテの情報量の多い脚本をものともせず、全部拾って音楽にしているのはあまたあるオペラの中でも屈指の傑作。次から次へと巻き起こるトラブルの数々をテンポよく処理していくのが楽しくて、そりゃ「そうそう失敗しないでしょ」というのが学生オペラ向き! 役も多いしね。ラストのラストで、浮気現場に突撃された伯爵があっさり伯爵夫人に「コンテッサ、ペルドーノ」と、さっきまで威張り散らしていたのに謝るけれど、このあたりやっぱり貴族ですよね。「こういうこと(浮気)は人に知られたら終わりにするものなの」という貴族の美学!

 

 

指揮:現田茂夫

演出:久恒秀典

 

伯爵:須田龍乃
伯爵夫人:北見エリナ
スザンナ:梅澤奈穂
フィガロ:石本高雅
ケルビーノ:水野菜津子
マルチェリーナ:富岡明子
バルトロ/アントニオ:清水宏樹
バジリオ/クルツィオ:新海康仁
バルバリーナ:白川憂里亜
花娘1:伊藤心菜
花娘2:前田梨緒

 

合 唱:東京藝術大学音楽学部声楽科オペラ実習Ⅰ履修生
管弦楽:藝大フィルハーモニア管弦楽団