じっくりお芝居を観る季節になりました。歌舞伎座の九月公演のトリは「一本刀土俵入り」でした。初めて観る作品。
才能がないからと部屋をクビになった相撲取りの茂兵衛に、お金やかんざしを与えて立派な横綱になるように励ます酌婦のお蔦。10年後、飴売りとして貧しく暮らすお蔦の窮地を救う茂兵衛だったが、横綱としてではなく博徒だった、というほろ苦い人生模様が描かれているのですが、「ああお蔦さん、棒ッ切れを振り廻してする茂兵衛の、これが、十年前に、櫛、簪、巾着ぐるみ、意見を貰った姐さんに、せめて、見て貰う駒形の、しがねえ姿の、横綱の土俵入りでござんす。」が聞かせ処の人情劇。恩を受けたら恩で返す、歌舞伎らしい作品です。
努力をしても報われないことがあるのが芸術界とスポーツ界の残酷なところですが、茂兵衛も夢破れた一人。キャリアチェンジしたものの、横綱としての土俵入にこだわる姿に切なくなります。やたらと自己否定が見え隠れして、決して格好良い主人公ではありません。ストーリーのオチも「それで良いの?」とスッキリしません。衣装や舞台美術は地味でいかにもお金がかかってないし、視覚に訴える大仕掛けがあるわけでもないからか、空席の目立つ歌舞伎座でした。この作品は、歌舞伎座の大舞台よりも、小劇場での上演の方が映えるのではないかなぁ。暗転の多さと長さも気になりました。
歌舞伎座新開場十周年
秀山祭九月大歌舞伎
二世中村吉右衛門三回忌追善
一本刀土俵入(いっぽんがたなどひょういり)
取手宿安孫子屋よりお蔦の家 軒の山桜まで
駒形茂兵衛:幸四郎
船印彫師辰三郎:松緑
堀下根吉:染五郎
船戸の弥八:吉之丞
若船頭:廣太郎
酌婦お松:梅花
町人伊兵衛:宗之助
清大工:錦吾
河岸山鬼一郎:桂三
波一里儀十:錦之助
老船頭:東蔵
お蔦:雀右衛門

