宝塚歌劇団月組『DEATH TAKES A HOLIDAY』@東急シアターオーブ | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 2011年7月14日~2011年9月4日にオフ・ブロードウェイのLaura Pels Theatre(オフ・ブロードウェイ)で初演された作品の日本初演です。劇場が大きくなり、出演者も倍増、二重の盆を用いた演出で華やかにショーアップされていました。生徒のために要らない役を増やすことでつまらない作品になることが珍しい宝塚歌劇ですが、翻訳ミュージカルの場合、作品ありきで役が作られているので過不足なく安心して楽しめるのが魅力。序列もないので、結局、どの役も見せ場があるので「役を振り分けられた」生徒にとってはたまらない経験になるのではないでしょうか。その一方、女性のみ、年齢を無視した配役、似たような体型の子ばかり(でないとショーは成り立ちませんが)のため、作品が崩壊してしまう危険もはらんでいます。今回は、風間柚乃にランベルティ侯爵を演じさせるのはやりすぎ。宝塚ってそもそも男装した女性が演じる演劇なので、ルックスは適当な部分が大きいけれど、さすがに無理があります。「学年の割に渋いよね」と「渋い役者だね」は別モノだと思います。とはいえ、生徒たちが存分に活躍できたこと、宝塚調へのアレンジが秀逸で、なかなか素敵な仕上がりになっていました。短期公演にもかかわらず、生オケによる演奏なのも作品を大切にしている感じが伝わってきて嬉しい限り。

 

 ストーリ―はハチャメチャです。ツッコみどころ満載のB級作品です。ランベルティ公爵一家が定員オーバー状態でオープンカーに乗り込み、速度オーバーで運転中だというのにシートベルトを締めることもなく立ちあがってしまって転落してしまうグラツィア。馬鹿丸出しの自業自得。でも、たまたま死神が2日間の休暇を取っていたために無傷で帰還。そして死神はというと、“イケメン”ロシア貴族=ニコライに変装して、なんとランベルティ侯爵一家で休暇を過ごすというスタート。もうこの時点でぶっ飛んでるでしょ。初めての休暇、初めての人間の暮らしにいちいち感動し「片面焼きの目玉焼き」に驚いたり、「サニーサイドアップ」を地名と勘違いしたり、何だか「初めての海外旅行」みたいな姿が初々しいんです。そして、イケメンだし貴族だしで女の子たちにモテモテになる中、いつの間にかグラツィアと恋仲に。たった一夜で何があったのかはわかりませんが、洞窟でニコライと二人っきりの一夜を過ごしてからのグラツィアは家族も今の暮らしも捨ててニコライについていこう!と生き急ぐので、きっと洞窟の一夜で凄いことがあったのでしょう(以下、スミレコード)。そんな娘を心配したアルビオーネ男爵がニコライに意見し(この場面がハイライト!)、ニコライは「グラツィアは(黄泉の国に)連れて行かない、一人で帰る」と約束したのに、そんなことはなかったかのように、仲良くグラツィアと手を取り合って旅立って幕。「本当の姿を見ないで!」と悲鳴をあげながら死神の姿に戻ったハズが、いつの間にか全身白のロマンティックな全身白の衣装に早変わりもしてたりして、いやあ、ニコライの暴走は誰にも止められません、観客も放り出されます。最初から最後までツッコミどころ満載を楽しみました。

 

 モーリー・イエストンが陳腐なストーリーに似合わない壮大な音楽を作曲し、それをキャストたちが変に崩さずオーソドックスな歌唱に徹して歌い上げていたのに好感。最も長身な生徒が音も取れないし声も出来上がってないワースト・プレイを披露と非情に気の毒なことになっていましたが、そこは宝塚クオリティ💦 大地真央以降、全てのトップスターが本公演で翻訳ミュージカルを上演してきた月組(とはいえ、現トップの月城かなとは今のところその予定なし……長期か!?)は、通常か細い歌唱になってしまいがちな娘役たちがパワフルに歌い踊り、男役も朗々たるオペラ調の歌唱をそれっぽく仕上げるなど、ミュージカルの組、芝居の組としてのプライドを見せてくれました。正直、月城かなとがPAの力を借りてはいても、ここまで見事にこの作品を歌い上げられるとは思いもしませんでしたし、フィナーレや幻想場面などを挿入して「宝塚歌劇化」することなく「ミュージカル」として上演したことにチャレンジ精神を感じました。宝塚って組によっては「役者に役を近づける」芸風だったりするのですが、現在の月組は「役に役者が近づく」タイプの芸風です。宝塚の歴代翻訳ミュージカルの中でも、オーソドックスなミュージカル上演だったのではないでしょうか。月城ニコライはマッチョじゃないし、女をグイグイひっぱっていく男らしさもはないし、男性フェロモンなんてどこへやらだけれど、ロシアの軍服で登場したり、椅子からずり落ちてしまいそうなラストなのに美の破壊力で「セクシーなニコライ」を「美しいニコライ」にアダプトした「トップのプライド」に感服。

 

【キャスト】

死神/ニコライ・サーキ:月城かなと

グラツィア・ランベルティ:海乃美月

ヴィットリオ・ランベルティ侯爵:風間柚乃

ダリオ・アルビオーネ男爵:英真なおき

ステファニー侯爵夫人:白雪さち花

エリック・フェントン少佐:夢奈瑠音

コラード・ダニエッリ:蓮つかさ

フィデレ:住城葵

エヴァンジェリーナ・ディ・サン・ダニエッリ伯爵夫人:彩みちる

ソフィア:桃歌雪

トリステーサ:菜々野あり

ロレンツォ:一星慧

アリス・・ランベルティ:白河りり

フェリシオ:瑠皇りあ

デイジー・フェントン:きよら羽龍

 

【スタッフ】

作詞・作曲:モーリー・イエストン
脚本:ピーター・ストーン、トーマス・ミーハン
原作:『ヴァカンツァの死』アルベルト・カゼッラ

宝塚版スタッフ
潤色・演出:生田大和
音楽監督・編曲:太田健
音楽指揮:御﨑惠
振付:御織ゆみ乃、桜木涼介
振付・タップ指導:三井聡
装置:國包洋子
衣装:加藤真美
照明:笠原俊幸
音響:大坪正仁
映像:石田肇
小道具:福井良安
歌唱指導:堂ノ脇恭子、高津敦子
演出助手:中村真央
舞台進行:香取克英