新国立劇場『ワーグナー:さまよえるオランダ人』@オペラパレス | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 入国規制の関係で、指揮者から歌手までほぼ総取り換えの公演となりました。カヴァー歌手による公演なのに、カヴァーのカヴァーが設定されていて、「SHOW MUST GO ON」の意気込みを感じました。制作のみなさん、年末年始、さぞ大変だったことでしょう。

 

 ストーリーはDQN父娘に振り回される青年の物語。フィアンセの父親(ダーラント)が娘(ゼンタ)を見ず知らずの男にお金で売ったかと思ったら、娘も娘で乗り気になるというとんでもない展開。もともと、ゼンタは会ったこともない推しにゾッコンで、フィアンセはそれが不満。ま、これ位だったら「ジャニーズ好きの彼女」くらいで済むんですけど、勝手に推しに対して「私が運命の女」と思い込んでしまうんだから質が悪い。すぐに回りが見えなくなり、コミュ障で、相手の気持ちはまったく考えない上に言動が一致しないので「清純な乙女」とか「誠の愛」とか言われても説得力ゼロ。そんな彼女とはさっさと別れちゃえば良いのに、惚れた弱みなのか、エリックがひたすら追いかけるのが不憫で不憫で。そもそも、ゼンタはオランダ人の何を知ってるというのさ! 初対面のオランダ人にいきなり永遠の愛を誓って、重い女1000%。エリックの時と同じように、コロっと裏切るに違いない! エリックとは会話がかみ合わないし、スキンシップは拒否するし、目すら合わせないキャラクターなので、コロナ仕様にピッタリですけど。「事情があるの!」「私の何が悪いの?」って、ヒロインとしての魅力なし。カーテンコールまでコミュニケーションを取ろうとするエリック(というか城宏憲)を塩対応する田崎尚美が役にはまりまくっていて、笑っちゃいました。

 

 でも、オペラの面白いところは、どんなにキャラクターが崩壊していても歌が良ければ「正」なんです。第一幕はダーラント(ゼンタのパパ)×オランダ人のオジサンたちが延々と歌う地味地味な舞台だったこともあり(ゴメンナサイ寝ました)、第二幕でいきなり涼やかな声が響いた時のインパクトといったら! ワーグナーというと、大きな(あ、言葉選びました)オジサンとオバサンが大声を張り合うイメージが強いのですが、今回は日本人キャストだけということもあり、しなやかなフレージングでとっても聞きやすい歌唱。マリーの山下牧子も含めて女性ソロ好調です。個人的にとっても良かった。エリックも華やかな歌唱で「あ、主役の人だ」と引き付けます。が、男性歌手については「日本人にワーグナーは厳しいな」を再認識。後半になってどんどん声量も肺活量も落ちてくるオランダ人、声がブレブレになってくるエリックで聴きながらヒヤヒヤ。こんな時、相手役に合わせて腰をかがめたり、持ち上げられているフリをして自分がジャンプして踊ったり、相手よりも決して大声を出さないなど「お慕い芸」が売りの、どこかの歌劇団(!)の生徒と違い、男声に合わせるなんてそぶりは微塵も見せず、自分だけ余裕綽々に歌うゼンタ。素晴らしいソプラノでした。でも、でも、やっぱり「ラスト、ゼンタで救済できるの?」と納得いかな~い(/・ω・)/

 

【スタッフ】
 指揮:(変更前)ジェームズ・コンロン→(変更後)ガエタノ・デスピノーサ
 演出:マティアス・フォン・シュテークマン
 美術:堀尾幸男
 衣裳:ひびのこづえ
 照明:磯野 睦
 再演演出:澤田康子
 舞台監督:村田健輔

【キャスト】
 ダーラント:妻屋秀和
 ゼンタ:(変更前)マルティーナ・ヴェルシェンバッハ→(変更後)田崎尚美
 エリック:(変更前)ラディスラフ・エルグル→(変更後)城 宏憲
 マリー:山下牧子
 舵手:鈴木 准
 オランダ人:(変更前)エギルス・シリンス→(変更後)河野鉄平

合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団

協 力:日本ワーグナー協会