【バレエ】東京バレエ団『海賊』@東京文化会館 | てるみん ~エンターテインメントな日々~

てるみん ~エンターテインメントな日々~

• ミュージアム& アトラクション
• アート& カルチャー
• 音楽
• 映画
……などについて書いてます

 一時期は海外のバレエ団の来日公演専売特許だった『海賊』ですが、男性ダンサーが充実してきたおかげか、日本のバレエ団も取り上げるようになりました。意外なことに、ボーイズ・バレエの第一人者ともいえる東京バレエ団は今回がバレエ団初演とのこと。とっくの昔に上演済だとばかり思っていました。ここ数年で主演級男性ダンサーがガラリと入れ替わった東京バレエ団なので、『海賊』を踊りこなせるのか(失礼ながら)心配していましたが、どうして、どうして、みなさん気持ち良く踊ってました。

 

 『海賊』の魅力は、とにもかくにも男性ダンサーの活躍。主役級が4人、それぞれが超絶技巧が求められるだけでなく、コールドの面々も、日ごろは「女性を美しく見せるための黒子」的存在だったりするところ、「俺様とオンナたち」に。ヤクザと情婦ならぬ、海賊と女たちといった風情。「男性を格好良く見せるために女性がひらひらしている」バレエ、これは宝塚の男役にも通じるところがあるのですが、いつもと主役逆転。誰に気兼ねすることなく、テクニックをぶつけ合う非常に楽しい作品です。今回ばかりは、女性は添え物。いいじゃないですか、時にはこんな作品も。

 

 ということで、幕開きから超絶技巧ダンサーが4人が次々に登場しては踊り狂ってます。お見事。それでいて、アクロバットではなくアートとして成り立っているのですから、東京バレエ団のダンサーたちの実力の程が伺えます。私のブログをご覧の方はご存知の通り、「発表会みたいに中途半端な女性たちの踊りが続くのが嫌い」なので、ほとんど二人のソリストがさっさと踊るというのが丁度良い配分。

 

 でも、今回の主役は上野水香ちゃん。登場するだけで舞台の空気が変わります。男性ダンサーよりも余裕綽綽。さっきまで肩で風を切っていたハズの主役級の男性ダンサーたちが束になってかかっても上野水香に貫録負け(世代交代したばかりで、上野水香ほど主役を踊ってないというのもあるんでしょうが)。身長が高いはずのダンサーも小さく見えてしまうのが不思議でした。そして、上野水香はどの男性ダンサーよりも切れ良くダイナミックであるばかりでなく、どの女性ダンサーよりもしなやかで色っぽくて「立派になったなぁ」と。同じ動きでも、一つの動きの中でスピードの緩急があり、見栄を切る瞬間はオケとピタっと揃い、それも、時間を持て余して動きを遅くしたり。移動距離が足りなくて焦ったりすることなく、オーダーメイドのようなフィット感。さすがのプリンシパルです。何よりも、誰よりも動きがあでやかで、存在だけで主役オーラがビシバシ。腕の、脚の上げ下ろしだけで魅せてくれます。今が絶頂期であろうダンサーの舞台を観られて幸せです。並のダンサーは、上野水香と同じ動きをしていても、「とにかく振付だけ覚えました」状態で動きが小さく、ちまちまし or ポキポキしているのは素人目にも明らか。

 

 ここ一か月の間、『ラ・バヤデール』でブロンズ・アイドルを、『海賊』でアリを、そして、K-BALLETで『カルメン』を観てきました。熊哲本人は拝見してないのですが、強烈に熊哲を感じさせらています。彼が挑戦してきたことが、ようやく次の世代で花開いた、そんな気がしています。そして、東京バレエ団で長年主役を張ってきた木村和夫が今回はコメディ・リリーフで脇役として登場。主役経験者ならではの舞台での余裕と芸の濃さが素敵でした。今、活躍している若手ダンサーたちも、素敵なおじ様ダンサー目指して踊り続けてください!

 

【スタッフ】

振付:アンナ=マリー・ホームズ(マリウス・プティパ、コンスタンチン、セルゲイエフに基づく)

音楽:アドルフ・アダン、チェーザレ・プーニ、レオ・ドリーブ、ペーター・フォン・オルデンブルク)

装置・衣装:ルイザ・スピナテッリ

 

指揮:ケン・シェ

管弦楽:東京ニューシティ管弦楽団

 

【キャスト】

メドーラ:上野水香

コンラッド:柄本弾

アリ:宮川新大

ギュルナーラ:川島麻実子

ランケデム:池本祥真

ビルバント:金指承太郎

アメイ:奈良春夏

パシャ:木村和夫

パシャの従者:ブラウリオ・アルバレス