20分だけの主役交代
新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』初日へ。開演直後から少し気になっていました。
小野絢子のオデット/オディールが、
「あれ? 足があまり上がっていない」
「ちょっとフラついている?」
もちろん長年見ているダンサーなので、多少のコンディションの波くらいはあります。でも今回は明らかに様子が違う。第4幕開演前に登場した吉田都監督のご挨拶で知ったのですが、どうやら体調不良だったようで、第3幕をもって降板となりました。当然ながらリフトやパートナーリングの都合もあり、ジークフリート王子の奥村康祐もそこで降板。まさかの途中交代です。
東フィルのトランペットも不調で、高音のたびにヒヤヒヤ。何度も椅子からずり落ちました。
最後の20分で主役をさらった代役コンビ
ここで登場したのが吉田朱里と井澤駿。出番は実質ラスト20分ほど。普通に考えれば圧倒的不利です。観客の感情はすでに前半から積み上がっているし、舞台上のダンサーたちはフィナーレに向けて興奮状態。おそらく十分なウォーミングアップの時間もなかったでしょう。
それなのに。衣装はもちろん、メイクも表情も完璧。踊りも絶好調。そして何より驚いたのは、登場した瞬間に主役の座を奪い取ったこと。「代役が出てきた」ではなく、「今、この舞台の主役はこの二人だ」と瞬間的に納得させるオーラに舌を巻きました。さすがスターダンサー。休憩時間が延びることもなく通常運行だったのが、新国立劇場バレエ団の底力というか、瞬発力というか。
正直ちょっと怖いレベルでした。
王子は二人いてはいけないらしい
ただしカーテンコールは少し複雑。夢の国のキャラクター運用みたいなルールなのか、王子二人体制はNGらしい。全員が揃うカーテンコールに登場したのは井澤駿と吉田朱里。一方、奥村康祐はカーテン前に姿を見せるのみ。いやいや。ほぼ全編踊ったのは奥村なんですけど。なんとも気の毒です。別に王子が二人いてもいいじゃないですか。観客は事情を知っているんだから。
木下嘉人、復帰
そして嬉しかったのが木下嘉人の復帰。ピーター・ライト版ではベンノの扱いが大きく、ソロも見せ場もたっぷりあります。しかも衣装が白。黒い床に黒い衣装の王子より、黒い床に白い衣装のベンノの方が目立つんですよね。この版のジークフリード王子は出番こそ多いものの、意外と見せ場が少ない。その中で木下嘉人は儲け役。そして相変わらず美しかったのが腕。左右に真っすぐ伸ばしたまま、縦横無尽に方向を変えていくラインの美しさはなかなか他のダンサーには真似できません。
ピーター・ライト版、毎回思うこと
ピーター・ライト版の第3幕では、定番の各国舞踊の合間に、あまり演奏されない曲を使ってハンガリー、ポーランド、イタリアの王女たちが登場します。毎回思うんですが、ここは正直蛇足。舞台の流れが停滞します。やっぱり使われないナンバーには意味があるんです。
フィリップ・ブロウズの衣装も重厚で、重そうでゴテゴテしていて動きが見えにくい。しかも全体的に似た色彩なので、視覚的な変化にも乏しい。どうしても間延びした印象になってしまいます。
奥村康祐は「役者歌」ならぬ「役者舞」が得意なダンサー。物語を動かす芝居の部分で真価を発揮するタイプです。ところがこの場面は芝居より儀式的な進行が中心。少し不利な構造なんですよね。もちろんベテランとして非常に上手い。だからこそ、その後オディールが現れた瞬間の変化が鮮やかでした。さっきまで退屈そうだった王子が、一瞬で恋する少年っぽくキラキラする。あの切り替わりは見事。
結局『白鳥の湖』の主役は白鳥
なんだかんだ言っても、『白鳥の湖』は白鳥が主役です。第1幕で男性陣がどれだけ踊りまくっても。男性陣、中島瑞生や長谷川涼太ら長身ダンサーが揃い、なかなか豪華な布陣でしたが、第2幕が始まった瞬間、「待ってました!」となる。あの感覚は何度観ても変わりません。新国立劇場バレエ団のコール・ド・バレエが最も輝く瞬間でもあります。あれだけの人数が揃うと本当に美しい。一人でも間違えたら全員転んでしまいそうな至近距離で複雑なフォーメーションを踊り切る素晴らしさといったら!
本日のMVPは二羽の白鳥
そして個人的な本日のMVP。山本涼杏と金城帆香による二羽の白鳥です。プロダクションによっては“大きな白鳥たち”として扱われる役ですね。キレッキレ。しかも表現が豊か。さらに二人で踊ることへのライバル心と高揚感みたいなものまで伝わってくる。これがもう格好いい。技術的にも見応え十分でしたが、それ以上に「踊っていて楽しい!」が客席まで飛んでくる。今日いちばん目を奪われたのは、間違いなくこの二人でした。
何はともあれ白鳥祭の開幕です。全キャストは見られないけれど、何度か通う予定。このプロダクション、好きになれるかな。。。
白鳥の湖
SWAN LAKE
全4幕(新国立劇場初演:2021年10月)
【キャスト】
オデット/オディール:小野絢子(第4幕:吉田朱里)
ジークフリート王子:奥村康祐(第4幕:井澤 駿)
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ(王子の友人):木下嘉人
王子の友人たち:川口藍、原田舞子、岸谷沙七優、徳永比奈子、堀之内咲希、吉田明花、原健太、佐野和輝、中島瑞生、長谷川諒太、朔元信、森本晃介
クルティザンヌ:飯野萌子、五月女遥
4羽の白鳥の娘たち:赤井綾乃、東真帆、小田那奈、川本果侑
2羽の白鳥の娘たち:山本涼杏、金城帆香
白鳥の娘たち:川口藍、関晶帆、関優奈、根岸祐衣、原田舞子、広瀬碧、内田美聡、榎本志結、岸谷沙七優、木村優子、白駒紗菜、五月女翔子、田尻紗菜、徳永比奈子、橋本真央、服部由依、花田美月、山本怜、横井彩乃、吉田明花、下川佳鈴、府川萌南、光岡幸姫、宮脇沙来
儀典長:森本晃介
ハンガリー王女:飯野萌子
ポーランド王女:根岸祐衣
イタリア王女:花形悠月
チャルダッシュ:原田舞子、宇賀大将
マズルカ:岸谷沙七優、徳永比奈子、橋本真央、吉田明花、小川尚宏、西一義、西川慶、樋口響、関晶帆、大木満里奈、木村優子、山本怜、趙載範、中島瑞生、山田悠貴、朔元信
ナポリの踊り:五月女遥、東真帆、永井駿介、森本亮介
スペインの踊り:山本涼杏、金城帆香、仲村啓、渡邊拓朗
【スタッフ】
振付:マリウス・プティパ、レフ・イワノフ、ピーター・ライト
演出:ピーター・ライト(ガリーナ・サムソワ協力)
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
美術・衣裳:フィリップ・プロウズ
照明:ピーター・タイゲン
指揮:ポール・マーフィー、冨田実里
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
芸術監督:吉田都
バレエミストレス/リハーサル・ディレクター:湯川麻美子
バレエマスター/アーティスティック・コーディネーター:陳秀滔
バレエミストレス:遠藤睦子
バレエマスター:森田健太郎
ゲストコーチ:佐久間奈緒
児童リハーサル指導:鈴木理奈(日本ジュニアバレエ)
副指揮:岡田知哉
ピアニスト:平塚あゆみ、飯野珠美、津村明希子、三上夏佳
技術監督:友光義
舞台監督:森岡肇
舞台監督助手:北田良子、飯田瑞貴、福田浩哉、藤田幸彦、山本哲也
舞台・照明・音響・ワードローブ:
新国立劇場技術部
シアター・コミュニケーションシステムズ
アート・ステージライティング・グループ
フリック・プロ
スタジオ・イーチ
日比有里(舞台)、今江友、安達久美子(照明)
長谷川智美(舞台)、稲田哲也(大道具)
北村俊哉(デザイン)、岩田鈴香(ワードローブ)
特殊効果:zacuuro
ヘア&ウィッグ:奥松
ステージトレーナー:小澤邦彦、近藤哲志、住田実也
舞台製作:東宝舞台
舞台セット製作:バーミンガム・ロイヤル・バレエ
衣裳製作:工房松
ウィッグ製作:奥松
小道具製作:ザ・スタッフ、東宝舞台、ファイバー・ワーク
靴製作:ザ・スタッフ、グリシコ、チャコット
SAシューズ ミシュー
バレエメイク協力:チャコット株式会社
制作:新国立劇場


















