※作品評価は

◎=おもしろい ○=ふつう △=う~む ×=よくない 珍=珍作

 

8月後半のNHKは12本。珍しく民放より本数が少なくなりました。

内容のディープさが冴えて面白かったのは、共に先にBSスペシャルで放送されて地上波に来た『運び屋の“ゲーム” バルカンルート 難民たちの逃避行』『デジタル・アイ 新発見続々!考古学×可視化テクノロジー』。

 

 

 

 

 

 

特に前者は“これ、本当に日本の放送局が作ったの?”といぶかしむほど、そのまま劇映画にできそうなギリギリの密着取材が効いていた。

 

後者は考古学好きであれば興奮必至。技術もすごいが、圧倒されるのはやはり研究者の情熱と知識の蓄積量。

 

NHKスペシャル『氷 その神秘の世界』は本当にぜいたくな映像で、近年いくつかあった北海道が舞台の自然科学作品の中でもかなりハイレベルな作品。これもやはりNHKの予算とスタッフあってこそ。

 

 

終盤にさらっと気候危機の影響を掘り下げて、この風景が消えるかもしれない…と警鐘を鳴らすのも悪くなかった

 

“こころの時代”からは、『ムスリムとして日本に生きる 私にとっての「ジハード」』

 

 

東京・大塚にあるマスジド大塚の発起人のひとりで事務局長を務める、パキスタン出身のクレイシ・ハールーンさん(58)の人生と語りから、“聖戦”と訳されることが多いものの実際は『奮闘/努力』という意味で使われる“ジハード”という概念の本質に迫り、穏やかな隣人としての、ひとりのムスリムの姿を映していく。

 

その本来の意味に沿い、90歳となる父・ムハンマドさんの意志を継ぎながらマスジド大塚で静かに、かつ継続的な活動を続けるハールーンさんの姿がとても印象的。ハールーンさん一家、おそらく別府マスジドの皆さんとも懇意なのでは。

 

前半に続き、第2次世界大戦関連の大作が次々と放送されたこの期間。木戸幸一を軸にした『昭和天皇 秘められた終戦工作』はこのシリーズの定型に沿ってきれいに59分でまとめた安定の出来だったものの…

 

 

ネットやラジオを聴いていると割と良い評判だった『“一億特攻”への道』

 

 

隊員の遺影写真をVFXで作った飛行機に乗せて飛ばすというAI美空ひばり並に悪趣味な演出をやったり、資料映像を使いながら延々と説明を続けたり、「なんでわざわざこんな手を加える?」という部分が多く、取材・情報量のすごさを相殺してしまっている。

 

余談ですが、今井正が朝鮮で撮った特攻プロパガンダ映画『愛と誓ひ』で紹介される特攻隊員のモデルとなった人のこともちらっと出てきました。あと、ディレクターの大島氏の声が西島秀俊そっくりなんですよ…

 

『“最後の1人を殺すまで” サイパン戦 発掘・米軍録音記録』

 

 

このタイトルは一種の“釣り”。実際には佐藤賢了の“女子供も最後まで…”の引用などから、日本軍が女性・子どもを利用してゲリラ戦を続けたことで民間人が多数殺されるハメになったことも描くのだが、まるで日本人が完全被害者のように持っていくラストはどうなのかと。

 

何より、この作品もスペイン人の侵略から数世紀に渡って迷惑を被り続けた先住民への視点が皆無。サイパンを描く作品のいつもの問題点。

 

ETV特集『無差別爆撃を問う 弁護士たちのBC級横浜裁判』

 

 

前半は大岡昇平の小説『ながい道』と映画『明日への遺言』のモデルにもなった名古屋大空襲をめぐる裁判(ただ、こちらは岡田司令官ではなく伊藤法務少佐の裁判)について。後半は台湾空襲をめぐる裁判についての2部構成。名古屋大空襲のパートはキム・ギヨンの映画『玄界灘は知っている』も思い起こさせる。

 

マドリックス弁護士のことなど興味深いポイントもある一方、他の作品~特に上記の『…サイパン戦』同様、“アメリカ人による罪悪感の吐露”への誘導、更には三淵嘉子と原爆裁判、ウクライナの現状とリンクさせるなど、意図は理解できるけれど、全体で見ると流れがチグハグで…

 

それなら全国民が標的になり得る“総力戦”プロパガンダを行っていた当時の政府・軍部の責任はどうなのか…と、腑に落ちない点も多い。

 

それらの大作とは逆に小品でも印象的だったのは、“戦争遺産島”シリーズの『猿島 東京湾の要塞島』。最近は自撮り目的で行く人も多いようで、関東に出かけたらぜひ一度行ってみたい。

 

 

この“戦争遺産島”シリーズ、ぜひ今後も続けてほしいです。

 

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