※作品評価は

◎=おもしろい ○=ふつう △=う~む ×=よくない 珍=珍作

 

5月前半のNHKは11本。4月のGW前半にドキュメンタリーが大量放送されたのに対して、5月に入ってからの後半はかなりおとなしく、レギュラー枠も再放送が多かったために本数は控えめになりました。

飛びぬけてすごい…!という作品も無かった代わりに平均値が非常に高く、これはダメだ…と思うようなものはひとつもありませんでした。

 

世間的に大きな反響を呼んだのは、大人から青少年まで多くのファンがいる“大物”密着作品の2本。

 

“プロフェッショナル”特別版は庵野秀明に続いて、“YAIBA!”“名探偵コナン”の青山剛昌に密着した『世界を、子どもの目で見てみたら』

 

 

青山氏は「最初は断った」と言いつつも、もともと隠遁生活をしていたわけでもないので、作業の様子もかなり見せてくれる。手作業とデジタル作画のミックス、そして編集者を巻き込んでのトリック実証実験などの過程によって、安定したクオリティーで長期連載を続けていることが見えるのはやはり面白い。

 

コナンの声優を続けているから当然だけど、元妻の高山みなみが解説役のようにナレーションを務めているのは何だか不思議な感じ。しかし30年に渡り殺人トリックを考え続けているって、どんな感じなのだろうか。

 

そして音楽界からはサカナクションのリーダーで中日ドラゴンズの大ファンでもある山口一郎に密着したNHKスペシャル『山口一郎“うつ”と生きる ~サカナクション 復活への日々~』

 

 

これも興味深く観たものの、引っかかるのはラスト。ナレーションがポジティブにまとめようとするのだが、山口一郎本人が考えていること、そこまで映像の中で見せてきたものとズレている気がしてならず…

 

NHKも山口一郎を“おもしろいキャラ”として様々な番組や企画で重宝してきた当事者であり、それが鬱となったひとつの原因と(具体的な局名は出さずに)本人は示唆していて、それをまた番組にするというのはある意味すごい構造だな…とやはり不思議な気持ちになったのでした。

 

考えたらプロ野球だと川崎宗則氏もそうだったけど、周囲から面白い・明るいキャラと思われている人ほど鬱になったり、突発的に自死しないか心配になることがあるんですよね…

 

地方局作品で面白かったのは、まず福岡局の『レジェンド食堂よ 永遠に』。もともと“#てれふく”枠で放送されたものを再編集して59分のロングバージョンにしたようで…

 

 

福岡市の西公園のホットドッグ屋さん。美野島で100年続くかどや食堂。中洲のはずれにある天ぷら屋台・ひょうたん。開店90年を迎えた店屋町のカフェ・ブラジレイロ。早良区田隈のふくちゃんラーメン…と、確かにどこも良さそうな店ばかりが出てくる。

 

ナビゲーターはTNC・ももち浜ストアのメイン出演者でもある岡澤アキラ。ナレーションは松重豊(と山本美月も)と、見事に民放ネタをかっさらってミックスし、ラストにはまるで“孤独のグルメ”の時のような松重豊の叫び声付きで、各料理をアップで再度見せるという妙なおまけ付き…

 

一見かなりのクセ球作品ですが、“小さな旅”よろしく、こういうのは観た人に「足を運んでみたい」と思わせたら勝ちです。

 

慶應高校よろしく、高校野球の新たな姿を見せてくれるのは、仙台育英高校野球部の須江航監督とOB選手たちが主人公となった仙台局『人生は“敗者復活戦”』

 

 

このようなスポーツ指導者ものは、実際に裏では…と感じることもあるが、須江監督に関しては自身が決して選手として傑出していたわけでもなく、更には“野球が全て”という思考でもないためか、本当に広い視野で高校野球に取り組んでいる様子が感じられる。特に卒業生で、現在は東京で料理人修行をする志賀さんのパートでそれが見えてくるし、野球部メンバーの顔つき自体が他とちょっと違うのだ。

 

それで甲子園でも大きな成果を挙げているのだから、他の旧態依然とした指導方針の学校~よく不祥事を起こすようなところも、もう少し考えを変えないだろうか…

 

東北からはもう一本、青森局による“Dearにっぽん”『神楽響く私の“ふるさと”』もよかった。

 

 

人口90名ほどの青森県佐井村牛滝地区で、11歳の坂井聖奈さんが女子禁制だった神楽チームに入り奮闘する姿を映し出す。

 

確かにベタな展開ではあるけれど、聖奈さんの存在がマイルドヤンキー感漂う町の男たちも変えていく様子がドラマチックで清々しい。それにしても神楽以上に、豊漁を願って叫びながら食事をし続けるという奇習・おこもりのインパクトが強く…

 

GW明けの週末は、ETV特集とNHKスペシャルが競うかのように硬派な作品を続けて出してきた。

 

ETV特集『汚名 沖縄密約事件 ある家族の50年』。1971年に沖縄返還時の密約を巡る報道とスキャンダルで渦中の人となり、2023年に死去した西山太吉と妻・啓子(2013年死去)の人生を、特に“妻~家族”の視点から振り返る。

 

 

土江ディレクターは琉球朝日放送に勤めていたころから20年以上西山太吉と接触していただけあり、自らも担当したナレーションに思い入れの強さを感じる。

 

本来なら“密約”が争点のはずなのに、男女関係が焦点となった世論の関心と裁判。それを上手く利用した当時の政府と、それに追従し続けた司法のあり方に、社会は変わったのかどうか…という疑問が。そして沖縄は“返還”ではなく、“買い戻し”に近かったのだとも。西山夫妻への静かなレクイエムとなるドキュメンタリーにも思えました。

 

そしてNHKスペシャル『福島モノローグ 2011-2024』は、2011年の原発事故により全町避難となった福島・富岡町に残り続け、近隣の家畜など動物の世話をし続けている松村直登さんが主人公。

 

 

劇場公開映画でも中村真夕監督の『ナオト、ひとりっきり』シリーズがあるが、こちらはタイトルの通りにナレーションを排し“自身が語る”形で松村さんの言葉と生活を映す。

 

除染作業によって大きな石が入れられて破壊された農地。放棄された田畑にできたメガソーラーの絶望感。後半、松村さんが田んぼを復活させて無農薬米の収穫に成功し、餅をつき、赤飯を炊いて半谷さんと共に食べるときの豊かさに溢れた画。その強烈なコントラスト。

 

震災と原発事故がなくてもこういう生活は廃れていたのかもしれないが、一体何が奪われて何を取り戻すことが復興なのか、出てくる人々の姿から考えさせられる作品。

 

しかし、ナレーションなしだと、普通の作品なら抑え目程度の音楽でもかなり強く感じるものだな…と改めて思いました。作り手でもないのにナニな言い草ですが、音の演出はほんと難しい…

 

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