※作品評価は

◎=おもしろい ○=ふつう △=う~む ×=よくない 珍=珍作

 

11月前半のNHKは12本。この期間のキーワードは間違いなく「島・海」。新潟の佐渡島、福岡の宗像大社・沖ノ島、そして釜石の三貫島と、地域も特徴も全く異なる3つの島・海域が舞台の作品が、それぞれ異なる面白さを発揮していました。

まず、完全ノーマークで驚かされたのが、岩手局“いわチャン”の『神秘の三貫島 ~命あふれる無人島~』。今年の自然科学系作品ではピカイチの内容。

 

 

山階鳥類研究所の調査にディレクターとカメラマンが2か月間、断続的に同行し、島の木々、鳥たちの生態に迫る。

 

何と言っても群生するタブノキ、そして地面に巣をつくるオオミズナギドリの大群は圧巻。さりげなく震災の影響についても挟み込まれ、様々な撮影手法を組み合わせた展開が目を離せなくさせる。

 

そしておまけに、これ市販価格ならいくら?となる山盛りのウニ丼を地元の人から強引に食べさせられる微笑ましい展開も。満面の笑顔でレンズをものともせず、カメラマンにも“食べなさい”と語りかける老婦人は最強。“カメラの暴力”なんて概念を軽々と超えてくる。

 

ディレクター自身が自然科学作品の制作を志して入社したというだけあって、自身が語ることでその「好き」具合がよく伝わってくるのもいい。

 

福岡の宗像大社近くにある鐘崎漁港と沖ノ島周辺の海域が舞台の“小さな旅”『神渡る島』は天気にも恵まれ、撮影クオリティーの高さがとにかく際立つ。

 

 

漁師たちの人間ドラマは抑え目に、クライマックスの祭りに向けて画の強さがジワジワと上がっていく。素潜りでのサザエ漁には“カメラマン、すごい…!”となり、祭りの本番、青い海・青い空の間で白い波しぶき上げて走る漁船の画…!鐘崎の人たちにとっては永久保存になるであろう映像作品になっていました。

 

そして佐渡島にある棚田が舞台の“Dearにっぽん”『“棚田じじい”と“祭りばか”』。まるでかこさとしの絵本『だるまちゃんとかみなりちゃん』みたいなタイトルだが…

 

 

代々農業を営み、現在は企業とも協力して体験型ツーリズムを進めたり、保全活動に力を入れる大石惣一郎さん(71)と、それに反発心を持ちつつ年に一度の祭りのため奮闘する“祭りバカ”こと平間順二さん(45)のふたりが主人公。

 

両者の考え方は異なるが、だからと言って対立をドラマ的に描くのではなく、それぞれがやっていること、棚田と集落のこれからに対する複雑な心境を一歩下がったところから映しているのがいい。この土地ならではのものと、全国の集落に共通する普遍性の両方を映し出している。

 

“これぞハートネットTVの本領発揮…!”と唸らされた年間ベスト級作品は、『認知症診断後の「希望」とは ~クリスティーンとの対話~』

 

 

オーストラリア在住で、95年に46歳で認知症と診断。以降、ゆるやかに進行しながらも現在まで執筆・講演活動を続けるクリスティーン・ブライデンさん(74)の足取りと、10月の来日時の様子、そして彼女の影響を受ける日本の当事者~特に若年性患者を映していく。

 

ここぞという所で川村ディレクター自身がナレーションを入れ、基本は情報伝達型ながら、撮影、編集、演出とどれも丁寧に編み込まれ、詰め込み過ぎず・カットし過ぎず、人を実直に映すことで心に残る作品になっているのが素晴らしい。本当の意味で、誰かに“勇気を与える”ことができるのはこういう作品なんだ…としみじみ思いました。

 

(ご意見・ご感想はtwitterからもどうぞ)

https://twitter.com/home