賃貸マンションの退去要求 | 司法書士事務所尼崎リーガルオフィスのブログ

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A子さんは、賃貸マンションで寝たきりの高齢の母親を介護しています。


賃貸マンションは築40年です。
最近になって、建て替えを理由に、家主から3ヵ月以内に退去するように言われています
引越しなどの費用として50万円の立ち退き料を支払うと言われましたが、A子さんはこのマンションで母を看取るつもりだったので、十分な補償とは思えません


このような場合、A子さん母娘は退去しなければならないのでしょうか?



賃貸マンションの賃貸借契約は、あらかじめ期間が決まっている定期借家か、2年ごとに契約を更新するものが多いようです。
家主が契約更新しないか、この2年の途中で解約する場合、6ヵ月前までにA子さんに申し入れなければなりません。
これは借地借家法の規則なので、仮に契約書に「3ヵ月前」と記載してあっても無効になります。



家主が6ヵ月前までに申し入れをした場合でも、法律で『正当事由』と認められる事情がなければ、A子さんは退去を拒否することができます。


しかし、A子さんが退去を拒否して家賃を支払っても、家主が受け取らないことも考えられます

このときには、家賃相当のお金を法務局に『供託』という手続きで預けておけば、家賃の不払いを理由に賃貸借契約を解除されることはありません



家主がどうしてもマンションを建て替えたいと考えているのなら、A子さんの介護の事情を考慮して立ち退き料を上乗せするでしょう。

そこで折り合いがつかなければ、家主はA子さんを相手取って退去を求める訴訟を起こすしかなくなります。


裁判では法律上の正当な事由があるかどうかが主な争点になります。


例えば家主側は、マンションの建物が耐震基準を満たしておらず、費用対効果を考えると耐震補強が難しいと主張したとします。
確かにそれも理由となりますが、今にも崩れ落ちそうな危険な建物でない限り、この理由だけでは不十分です。


一方、A子さん側は、寝たきりの母親を引越しさせるのは精神的にも金銭的にも負担が大きいという言い分があります。


これら両方の言い分を聞いて裁判所は、家主が十分な立ち退き料を払い、A子さんを退去させる判決を出す可能性が高いようです。
十分な立ち退き料を支払うということも、正当事由の一部になると法律に明記されているためです。


もちろん、裁判所が十分だと認める立ち退き料を支払う意思がなければ、家主側の訴えそのものが退けられます
また、家主の利益追求のためだけに建て替えようとしていると判断された場合にも、同様に訴えが退けられることになります。



賃貸マンションの立ち退き料は、『敷金の全額返還+引越し費用+新居の仲介手数料や礼金などの費用+慰謝料』が一般的です。
裁判では両方の事情を踏まえて判断されますが、入居者に特別な事情があるときには立ち退き料として数百万円を支払うケースもあるようです。