不動産の相続登記義務化がされる、という話題を聞かれた方からの相続登記のご相談を受ける機会が増えてきたように感じます。
不動産の売買であれば代金支払いと引き換えに登記をすることは一般的です。代金を支払ったのに登記をしないと、世の中に「これは私の不動産だ」と言えないためです。
ただ、相続登記は義務でなく、銀行預金は解約しても登記は後回し…のまま数十年経過、という状態も多くあり、登記簿上の所有者が分からない「所有者不明土地」が増加し、社会問題となりました。登記簿上の所有者が既に亡くなられている場合、その土地に関して問題が生じた場合(例えば、不法投棄、境界確定、道路拡張等による収用)に相続人を探し、連絡を取ろうにも行方不明だったり外国に帰化していたり、と途方もない労力がかかります。
この状態を解決すべく、令和3年に民法等の改正があり、相続登記の義務化をはじめ、不動産に関するルールが変わりました。
◎相続登記の義務化
(令和6年4月1日施行)
・相続によって不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。
・相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に遺産分割が成立しなかった場合、法定相続分での相続登記を行い、その後に遺産分割登記をする方法がありますが、そうした申請手続きの負担軽減を図るため、令和6年4月1日から「相続人申告登記」制度が創設されます。
この制度では、相続人が登記簿上の所有者に相続が発生したこと、自身が法定相続人であることを登記所(法務局)に申出ることで相続登記の申請義務を履行したとみなされます。
・上記期限までに正当な理由なく相続登記をしなかった場合、10万円以下の過料が科せられます。ただし、この期限は相続登記義務化が施行された後から数えるため、施行前に開始した相続についても、令和6年4月1日から3年を経過した令和9年4月1日以前に過料が科せられることはありません。
◎住所氏名の変更登記の義務化
(令和8年4月27日までに施行予定)
・登記簿上の所有者は、住所や氏名を変更した場合、変更した日から2年以内に住所等の変更登記をする必要があります。
・上記期限までに正当な理由なく住所等変更登記をしなかった場合は、5万円以下の過料が科せられます
相続や住所変更による登記が法令上の義務でなく、誰からも催促されない、しかも登記をするには司法書士報酬と登録免許税や書類実費がかかる…という現状が所有者不明土地問題に理由です。
市外に転居した場合、「引越しに伴うご案内」のようなチラシを市役所で受けとることがありますが、保険や年金等の案内はされても、不動産をお持ちなら住所変更登記も忘れずに、とはあまり記載ないように思います。
今回、登記を行わないことに対する過料規定もされましたが、おそらく現実に過料を科すことはないのでは?と推測します(規定はあるので過料が科せられることが原則ですが、これまで義務でなかった手続きについて即時に過料制裁とはならないと思いますが、私見です)。
ただ、法令で義務化したこと・過料制裁もあること が原則となる意義は多いにあります。
住所や氏名の変更登記は、事実の報告的な登記申請のため、特に難しいものではなく、司法書士に依頼されなくとも、法務局のホームページに掲載されている登記申請書のひな形を参考にして、ご自身で行うことはできると思います(住所変更したのがかなり昔で、住所変遷を証明できない場合や住居表示と住所異動が混在している場合や共有・複数不動産の場合の扱い等、少し検討が必要な事例もありますが)。
相続登記も必要な書類や登記申請書のひな形が法務局のホームページにありますので、ご自身で登記申請を行うことも可能ですが、住所等変更登記と異なり、遺産分割(誰が不動産を承継するか)や税金等、実体上の検討を行う必要があるため、相続登記については司法書士等の専門家にご相談された後に進めた方がよい(安易に法定相続で登記すること等を避ける)かと思いました。