イギリスのある女中の生涯
シルビィア・マーロウ:作 徳岡孝夫:訳
草思社:発行 1994年
20世紀初頭、南イングランドの牛飼いの11番目の子として生まれた少女が、結婚をするまでの実話をなるべく本人の言葉通りにまとめた一冊です。
話をしてくれたのは、1899年生まれのウィニフレッド・グレース夫人。大変記憶力の優れた人で、生活や家族のこと、自分の感じたことや考え方などを丁寧にマーロウさんに話してくれたのだそうです。ほんの1世紀もまえのことなのに、女性の立場はそれはひどいものでした。それだけでなくイギリスが階級社会であったことがよくわかります。それは虐げられた底辺の庶民の目線から語られるので、明確に伝わってくるのでしょう。
14歳で奉公に出た少女の母親は自分の身は自分で守るしかないと厳しくしつけます。そのころは、父親のない子どもを生むというのは、家族を路頭に迷わせることだったのです。領主の子どもをむりやり宿すようなことになってなぜ、その一家が追われるのでしょう。主人公の母親もそうした辛い経験をした一人だったようです。ですから男女のふるまいには大変厳しかったとか。
奉公に出ると火事や行儀見習いができるというのも一面ではありましたが、都合よく安い給料でベットも共用などという環境だったそうです。時には雇い主ではなく、上役から給料をピンハネされるようなこともありました。またエプロンや衣服は親が準備するというのが当たり前、奉公に出すには親も大変だったのです。
生活の一場面を細部まで記憶していた彼女のおかげで、イギリスのある時代の庶民の生活が生き生きと目に浮かぶような一冊ができあがりました。辛い奉公の中で知り合った若者と誠実に向き合い主人公は、結婚します。でも今のような恋愛結婚とはほど遠いものでした。たんたんと書かれたことで、子ども時代では牛飼いの生活などもよくわかりました。