(過去記事1)の続き

 

眞田論文p76表8(通塾経験が高校進学に与える効果)

を見る.

通塾経験と相関があるか,

(進学校,中堅校)*(男女)

で4通り組合せがあるが,

その4通り全てで,

正の相関が統計的有意にある(偶然可能性5%未満).

 

 この4つの数値をもって,著者眞田氏は,通塾には効果があると考えているのだろう.

 

 ただ,疑問点がある.この表の最後に決定係数があるが,男で0.30,女で0.24

とやはり数値が低いのだ.0-1の値で,0が無相関を意味する.

用途にもよるが一般的には0.5以上とか0.6以上で相関アリとみなすのが目安とされている.

0.24-0.3はかなり低い.

 それに(過去記事1)でも触れたが,p73表3のC統計量も小さい.

 通塾率が高い精度で回帰分析できていないのだ.

 

 ただ,あらためて表8を眺めてみると,

(男女)*(進学校,中堅校)の4パターン,全てにおいて

偶然発生率0.1%未満の強い統計的級異性を示しているパラメータは一つしかない.

それは,

15歳時アスピレーション(大卒希望あり)

である.

統計的有意性の強さだけでなく,値も

(2.79***,1.58***,2.40***,1.26***)

と大きい.(男進学校,男中堅校,女進学校,女中堅校)の順.(***は偶然率0.1%未満を表す)

こんなに大きな値を示すパラメータは他にない.

大卒希望度に次いで強い相関を示すのは,(生年は置いておいて)

親の学歴(大卒未満か否か)

である.

これは

(ー0.98***,ー0.38*,ー0.93***,ー0.46*)

である.(*は偶然率5%未満を表す.)

親が大卒未満であることは,

子の進学校合格に負の相関がある.統計的に非常に有意に.

 

しかし,とはいっても,その値はー1程度だ.

先の大卒希望度との相関がどれも1以上で3に近い値もあることを見れば分かるように,

それほど大きくない.

 

 それに比べれば通塾効果など,

(0.51*,0.37*,0.55**,0.38**)

と値も低い.(**は偶然発生率1%未満)

 

 何度も言うが,通塾効果とは書いてはいるが,因果関係とは言いにくい.

というのも,C統計量の低さから,通塾因子から,他の因子が抜け切れていない.あくまで相関関係であって,因果関係のある隠れた因子が存在している可能性が高い.

 

 というわけで,この論文を読んで,むしろ,地頭論がさらに強く認識された.

 

親の学歴というのは,生まれながらの地頭に間接的にある確率で働く要因であって,

地頭こそ進学実績に一番の要因ではないだろうか.

そう言えば,一卵性双生児の研究で,年齢が上がれば上がるほど幼少期の環境の差は無くなって,年収は一致していくという調査結果があったと思う.

 

 IQとかある時点での偏差値とか,同じ地頭帯でカテゴリー分けして,一定期間後にどのような教育手段で,

偏差値がどのくらい伸びたか,という調査をしないと詳しいところは分からないと思う.

 

 では,きみがその研究をやってくれ,と言われても,そんな生データは手に入りにくいので仕方ないが.


 サンプル数が少ないのは痛い。中澤論文2013でも男女差が出てそれについて論じていたけど、それって単にサンプル数が少なかった為に偏りが出たに過ぎない可能性あると思う。仮に東日本と西日本で分けるとか、誕生日が偶数か奇数かとかで分類しても、どこかの数値で偏りが出てしまうことはありうる(確率5%の偶然は20項目の数値のどこかで出現する)。流石に誕生日が偶数と奇数で分けたら、出た差に不自然さは感じてしまうが、たまたま性別とか生年とか移住地だと、人間はそこに主観的な理由付けをしてしまいたくなる。


 

 まあ,いろいろ文句は言ってきたが,公表されたデータで分析するのは限界があるのだろう.論文著者の技量に文句を言っているわけではありません.

 論文には沢山留保がついています。

 アブストラクトには、本論文では確定的なことは何も会えませんでした、と書いては格好がつかないので、留保を全部とって不確定なことを書いてしまうのがこの分野の習慣です。そんな事は分かっている人には常識なんだけど、分からない人や悪用しようとする人はいるので注意は必要。

 

 このデータを世間が悪用しないように,まあ釘を刺しておきました.

 政策決定とか世論形成とかで,この論文がアブストラクトしか読まない人たちのあいだで独り歩きしてほしくないので,ちょっと厳しめに書いてしまいました.

 

 

 最後に改めて私の感想を書く。

この真田論文を読んで、一番印象的だったのは、

通塾や通信教育をさておいて、家庭教師で清々しいくらい全く学力向上効果が無いことだ。

 通塾や通信教育経験の有無には、生徒本人の学習意欲が反映される側、家庭教師をつけるか否かは親の事情と意思で決められ、生徒本人の意思が反映されないようだ。その家庭教師で学力向上効果が全く見られない。家庭教師の提供しているサービスは、個別だけあって、塾や通信教育よりもきめ細かなはずである。それで効果が無いということは、通塾や通信教育で効果が見られたとしても、それは学習意欲のある生徒がそれを利用しただけであり、塾や通信教育が無かったとしても、市販問題集や別の方法で学力向上はしていたと考えるのが自然である。勉強しない層でも、塾行かなければ自習しないが塾へ通っている時間だけは勉強している効果があるのでは、と論文にはあったが、それなら家庭教師でも成り立つはずで、むしろ塾ならボーッと聞いたフリできるが、家庭教師ならマンツーマンなので聞いたフリできず勉強を強制されるはずだ。それでも家庭教師には効果がない。だから塾の効果も生徒個別の意欲や特性が隠れた因子があると考えるのが自然であろう。



(過去記事1)

 『塾に学力向上効果はあるか?3』(過去記事1)の続き 通信教育で統計的有意なのは, (進学校,中堅校)*(男,女)の組み合わせ4とおりのうち, 進学校*女子の一通りだけである.  ここで,は…リンクameblo.jp