(過去記事1)からの5+1回シリーズで

私立中学に学力向上効果はあるのか?

について論じた.

 世間の塾講師や大学教授が(私立中学入学は大学入試合格に)効果ありとして引用している論文を取り上げ,

その論文を正確に読むと,効果ありとは言えないとの見解を述べた.

 

 今回は私立中学ではなく,学習塾に効果はあるか?について論じてみたい.

 

 学習塾の効果についての論文はいくつか出ているようだ.

 

 今回は以下の(査読付き学術)論文を読んでみる.

 

眞田 英毅,2018,「高校進学における学校外教育の効果 ――低階層の子どもたちの教育達成――」『社会学年報』47: 69-82.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tss/47/0/47_69/_pdf/-char/en

 

 (過去記事1)でもそうだったが,この手の分野の論文はアブストラクトは信用が置けない.本文を正確に読み,その分析手法や生データを理解しないと結論は出ない.

 

 この論文のイントロや参考文献を見ればわかるように,これまでにも

塾に効果なし

塾に効果あり

とする両方の研究結果が出ていた.

 

 効果なしとする説は,海外ではByun and Park(2012), 日本では,盛山・野口(1984),片岡(2001),都村・西丸・織田(2011).

 効果ありとする説は,片瀬・平沢(2008),中澤(2013),眞田(2018)

のようだ.

 全部の論文を精査したわけではない.中澤(2013)の論文p4に依った.あくまで各著者の見解である.例えば

都村・西丸・織田(2011)と片瀬・平沢(2008)は同じデータを使って別の結論になっている.それに,効果は”あり・なし”の2値で明確に著者が述べているわけではない.ある限定的な対象に対して通塾効果を認めて居たり認めて居なかったりする.よって上の2分法は目安に過ぎない.)

 

 p69(論文p1)で著者眞田氏が書くように,先行研究には2点で不満があった.

・ひとつは,塾の効果だけを純粋に抽出できているのかという問題があった.

 もともと学力優秀で意欲ある人が塾に行っているだけで,塾と進学実績には相関関係はあっても因果関係は無い,という可能性がある.相関関係と因果関係の違いは(過去記事2).

・ふたつめは,従来の研究が,かなり難易度の高い進学校への実績に焦点を絞っていたことだ.

 

本論文では,二つ目の不満点から,高校入試の中堅校への進学実績を考慮に入れている.

それでサブタイトルに

低階層の子どもたちの教育達成

と入れているわけであるが,

本文を見てみると,言うほど低階層に焦点を絞った内容ではない.従来なら,進学校への進学実績との相関だけみるところ,

中堅校(大学進学率50-80%)を入れているというだけだ.

”低階層の子ども”

と書くほどのことではないと思う.

もともとの著者の研究の動機はそうであったのだろうが,論文の仕上がりとしては,そこまで低階層に焦点が向けられているわけでもない.

 (過去記事1)のシリーズでも書いたが,そこでは,中学入試最低偏差値の微変動と,その中学の上位1割とかしか受からない国立大学の合格者数とか,優秀層の重複合格だらけの私立も含めた大学合格者数を比べていた.

つまり中学入試の段階の最低層と,大学入試段階の優秀層を比べることで,中高時代の学力向上効果をみるなど,不自然な点があった.

 この眞田論文では,中堅校への進学実績を入れることで,その問題点を緩和している.

 

 ひとつめの不満点,つまり塾効果の抽出だが,これは先行研究(中野2013)でも考えられてはいる.

 

中澤渉,2013a,「通塾が進路選択に及ぼす因果効果の異質
性――傾向スコア・マッチングの応用」『教育社会学研
究』92: 151-74.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/eds/92/0/92_151/_pdf/-char/ja

 

 

 ただ,私が中澤論文を取り上げず眞田論文を取り上げたのは,抽出方法に疑問があったからだ.

 中澤論文は傾向スコア・マッチングという手法を使い,眞田論文では傾向スコア・逆確率重み付け法を使っている.

 傾向スコア・マッチング法の方がシンプルでより正確な方法だ.家庭の経済状況や親の学歴などで分類して,それぞれのカテゴリーで傾向を見る.カテゴリー数が大きくなるとサンプル数が減ってしまうので,

 通塾確率pがある変数xでy=e^x/(1+e^x)と表されるとし,このxが裕福度a_1, 親の学歴度a_2, ...などの

関数x(a_1,a_2,...)になっていると考え,線形近似

x=c_1 a_1+c_2 a_2+....

する.つまり,x=log (p/(1-p))

だから,(a_1, a_2, ..., log(p/(1-p))

をプロットして最小二乗法でパラメータc_1, c_2, ...

を求める.

 それから各生徒で通塾率に影響する値x=c_1 a_1+c_2 a_2+...

を大小で5分類し,その各層で,合格率を比べるわけである.

各層の中では,通塾する条件はほぼ同じと考えて,その中で通塾経験と合否に相関関係を見るわけである.

 

 単純で良いのだが,私が一番不満なのは,

それらパラメータの中に

生徒本人の気質・学力

を表しそうなものは無かったことだ.

 中澤は

 生年,父母の学歴,住居地(しかも関東・中部・近畿・中国・四国・九州などおおざっぱ),兄弟数,父職業,本の冊数,暮らし向き(5段階)

などを上げていたが,

 生徒本人の傾向が絡んでいるものが無かった.

 

 一方で,眞田論文は,

15歳時で大学・大学院を志望するかしないか(1か0)

の項目があった.

 そこで中澤2013でなく眞田2018論文を見ていこう.

 

続く.

 

 

 

(過去記事1)

 

(過去記事2)