中学受験数学では,連立2元一次方程式の問題が良く出る.

連立2元一次方程式とは,

ax+by=e

cx+dy=f

のことだ.これは通常は,中学校2年生普通級の2学期はじめごろに習う.

 

これを私立中学校は小学校6年生に出題するので,2年弱前倒しで出していることになる.

 

高校ではこの方程式の解は,行列の逆行列の公式として,

x=(de-bf)/(ad-bc)

y=(-ce+af)/(ad-bc)

とすぐ出る.中学生はこの公式に頼らず,変数消去で答えを出す.

ad-bc=0なら解は0個または無限個ある.2元でなくて未知数が有限個なら何個あっても出来るようになるのは(日本では)理系大学一年生の内容だ.

 

 私立中学校はかなり無理な問題を定番問題として課していることになる.

 

 なぜそんなことをしているのだろうか?

 理由は良く分からない.

 私が想像する理由:

 

(1)こうすることで,中学に入ったときに連立方程式につまづく生徒を入試ではじけると思っているのか,(本当にはじけるのかはじけないのかは分からない)

(2)出題する上で出しやすい,採点しやすい,差をつけやすい問題なのか

(3)慣習上そうなってきているので(思考停止で)抜け出せないのか?(この手の問題は戦前から旧制中学入試で出題されている伝統なのだ.)

(4)他の学校もそうしているので,トップ校は同じ種類の問題を出すことで,その分野の優秀な生徒を選抜できるのか?

 

(4)を補足する.例えば,将棋が子どもたちに流行っている前提で,どの学校も将棋で入試を行っていたとすると,自校だけ他校と違う全くマイナーな頭脳ゲーム(オセロとか)で入試をするなら,世間の優秀な生徒は他校に流れてしまい,自校にくるのは将棋で実績を残せない1.5流以下になる可能性が高い.だから2流以下の学校は別にして,トップ校は将棋を入試で使い続けるし,子供たちも将棋にかけるという伝統が形成されやすい.

 

(1)はどうか分からない.なぜなら,2元1次方程式の問題を出しつつも,解答としては正攻法でない特殊算を想定しているからだ.鶴亀算が出来る人が方程式をマスターしやすいかしにくいかは両方ありえる.(鶴亀算をマスターできるような優秀な人なら方程式も早くマスターできると考えるか,鶴亀算が得意なら方程式のお得感を感じられず躓くと考えるか)

 

 本当に私立中学が中学校で習う範囲内の知識を使わなければ解けない問題を出したのなら,世間的には問題となるだろう.小学6年生向けの入試問題は小学校の学習範囲で出すのが建前だからだ.

 

 本来なら2元一次連立方程式をたてて解くというのが正攻法の問題は,特殊算の手法で解けるとされ,特殊算は私立中学で出しても良いという事になっている.特殊算は今の文科省の教科書・カリキュラムには無い(小6教科書のコラムなどで扱っている場合もある).特殊算を中受塾ではかなり特訓している.

 

 特殊算は,つるかめ算とか面積図,線分図などとも言われ,(3)でも書いたが,戦前からずっと教育されている.江戸時代以前からと言っても良いだろう.

 物理学者・湯川秀樹も勉強したようで,後年こう書いている.

つるかめ算について、ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士は、自身の中学生の頃を振り返って次のように記している。「代数も好きであった。小学校の算術に、ツルカメ算などというのがある。まるで手品のような巧妙な工夫をしないと、答えが出ない問題だ。それが代数では、答えを未知数エックスと書くことによって、苦もなく解ける。論理のすじ道を真直ぐにたどって行けばよい」(湯川秀樹著『旅人』角川学芸出版)。

 

 

 私はこれは湯川秀樹氏が鶴亀算(特殊算)についてネガティブな印象を持っていたと考えている.

 私もそうである.

 

 次回は,特殊算の詳細について話を勧める.

 

 『中学受験の特殊算に意味はあるのか2』(過去記事1)の続き 特殊算とは何か?つるかめ算,線分図,面積図の総称であり,その本質は,本来,2元一次連立方程式をたてて解く問題に対し,連立方程式を回避する…リンクameblo.jp


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