ニートの自伝・11 | シケた世の中に毒を盛る底辺の住民たち

シケた世の中に毒を盛る底辺の住民たち

リレー小説したり、らりぴーの自己満足だったり、シラケムードの生活に喝を入れるか泥沼に陥るかは、あなた次第。

キョトン。
という顔を、実際に見るのはこれが初めてだ。
母親は、突然ドアを開けた息子に反応できず、ただただ、キョトンとしていた。
そのキョトン顔は、完全に朝方までここにいたはずのいよかんそのものだが、母親は気づいていないらしい。


「下で一緒にご飯食べる?」
「いや、いい。」
「そう、じゃあ、ここ、置いとくわね。」


野太いいよかん声でそう言うと、いよかん、いや母親は、階段を降りていった。


どういうことだ。
あいつは何を考えてるんだ。
おけら様が俺に道を指し示してくれた、という流れで何の問題もなかったのに。
無理やり再登場させたのが丸わかりの展開だ。


とにかく、いよかん顔の母親については、無視の方向で生活することに決めた。
俺は、このすね毛を武器にできる職業を見つけて、アリ達のように懸命に働いてみることへの希望を抱いた。
しかし、それとは別に、頭の隅にずっとあった不安が、形になって俺の心を侵食し始めた。


まずは、高校へ行かなければ始まらないのではないか。
どんな仕事をするにしろ、中卒では選択肢は相当せばまってしまうだろう。
せっかくやりたい仕事を見つけても、社会ではきっとのけ者にされてしまう。
それぐらいのこと、中学に入りたての頃から分かっていた。



隣町に住む父親の親戚に、高校を中退した兄ちゃんがいる。
いじめか何かでやむを得ず辞めることになったらしいが、
その親が心配して、俺の父親に仕事のあっ旋を何度となく頼みに来ていたのを、俺は知っている。


父親は同じように心配そうな表情をしながら「できる限りのことはする」みたいなことを言っていたけど、結局兄ちゃんは全然似つかわしくないとび職になり、足場から足を滑らして全身打撲。
入院する羽目になったと聞いた。


この兄ちゃんのことを俺は、意識的に考えないように、記憶の隅へ隅へと遠ざけていた。
「俺も、兄ちゃんみたいになったらどうしよう。」
そう考えるのが、恐かったからだ。


しかし今、俺は確実に、兄ちゃんに近い道を辿っている。
いや、高校を受験することもままならない現状では、それ以上である。


まず、兄ちゃんに会いに行こう。
今、どこでどうゆう生活をしているか、どんな希望を抱いているか、どんなことを考えているか、聞かないことには始まらない。
そんな気がした。


しょうがなく、いよかん顔の母親に兄ちゃんの居場所を聞くと、
濃い顔に満面の笑みで、俺を送り出してくれた。



兄ちゃんの居場所は、電車を乗り継ぎ、最寄駅から1分ほど歩いた場所にあった。
「牟田国際ビルヂング」そう書かれた看板に、大きなビル。
26階ぐらいはありそうな建物を見上げ、俺は目を見張った。