ニートの自伝・8 | シケた世の中に毒を盛る底辺の住民たち

シケた世の中に毒を盛る底辺の住民たち

リレー小説したり、らりぴーの自己満足だったり、シラケムードの生活に喝を入れるか泥沼に陥るかは、あなた次第。

部屋を出るどころか、家を出ることにした。


出発は深夜だ。家族に気づかれぬよう、こっそりと。

虫カゴのアリ達を、外の世界へ放り出すのだ。


人に飼われた生物が野生に還る。ここに、俺が成長するための
ヒントがある気がした。



部屋には”待っていてください”と一言置き手紙を残した。

これは家出ではない。自分の殻を破るための、修行だ。




音を立てぬようこっそりと家を出ると、近所の通称”おけら山”へ向かった。


おけら山はキャンプ、バーベキューなどのスポットになっており、夏は人で賑わう。

しかし、初冬の今は、双眼鏡で野鳥観察を行う男がちらほらいる位で、ひっそりとしていた。




山には立ち入り禁止区域がある。

そこに立ち入ると”おけら様”の呪いをかけられるとの言い伝えは有名な話で、決して立ち入らない様、幼い頃からきつく言われていた。


俺はこの立ち入り禁止区域の奥でアリを還し、しばらく暮らす事にした。
誰にも見つからない為だ。




おけら山へ入り、”立入禁止”と札の下がっているロープの前で立ち止まった。


この奥は明かりもついておらず、三歩先も見えない状態だ。

持ってきたペンライトで先を照らすと、ロープをくぐり、自分の背丈以上の草木をかきわけ、立入禁止区域へ進入した。



小一時間程あるいただろうか。振り返ると後ろに見えていた明かりは既に見えず、辺り一面が
真っ暗となっていた。


「ここにしよう。」


独り言をつぶやき、土の上にどかんと座った。

ライトで土を照らし、山アリをさがした。

虫カゴのアリ達の友をさがしてやらねば。




ふと、黒いものを発見し、つまみ上げた。   アリではない。
よく見ると、このあたり一面、その黒いものでいっぱいになっているようだ。



「・・・・毛?」



ぞっとして振り返ると、後ろに人が座っていた。


その男は、毛むくじゃらで、すねのあたりの毛を手でぐるぐると纏め、ブチっと引っこ抜いては
捨てていた。
このへんに捨ててある毛は全てこの男のものだろうか。にわかに信じがたい毛の量だった。




「これ、全部おまえの毛か?」




俺はペンライトで男を照らし、聞いた。
めがねをかけている。いや、めがねが顔と一体化している。




「わし、おけら様じゃけぇ」




毛むくじゃらの男はそうつぶやくと、丸めたすねの毛を抜いてまた捨てた。