和平の現状

 

ウクライナ政府・ロシア政府ともに、和平への提案を表明しているが、現時点では相手側に受け入れられる内容を伴っておらず、専ら両国の政治宣伝用文書に過ぎない。将来行われる可能性のあるロシア・ウクライナ交渉では、アメリカが大きな影響力を持っているだけに、今年11月の米大統領選挙を経て2025年に新行政府が発足し、フル稼働できるようになるまでの間は、恐らく和平の機運が高まることは予想されまい。

 

当面、ウクライナに侵攻したロシア軍とウクライナ軍との間で、一進一退の軍事衝突が継続していくことになろう。将来和平交渉において大きな発言権を確保するため、両軍ともに軍事作戦の強化に取り組むことになろう。その間に戦争の犠牲者は、軍民を問わず、増大しつつけるであろう。

 

国内政治の観点からするならば、5選を果たしたプーチン大統領の政治的な立場は、任期は終了したが新たな大統領選挙を実施できない国内情勢を抱えるゼレンスキー大統領に比して、相対的に強いと言われている。一方、プーチン大統領は、「賢い」国内統治を今後長期にわたって継続していかなければならず、同人の立場がますます強くなるとは予想しがたい。今がピークなのかもしれない。「プーチンの罠」は、同大統領が強権政治をどれほど長く維持できるかにあり、国内性的に大きな脆弱性と矛盾を抱えている。私たち第3国人は、プーチン大統領のガバナンス能力の推移を注意深くフォローしていく必要がある。

 

日本のメディア

 

ところが、日本のメディアは、系統的にロシアの国内政治フォローしていくことに、大きな関心を持っているようには見えない。ロシアのウクライナ侵略に関する報道・解説は、ウクライナ領内における軍事衝突に関するものが中心であり、ロシアの国内政治、経済、社会面に関するものがほとんどない。プーチン大統領は頻繁に演説を行っているが、それを系統的に捉えて分析する解説者もあまり見当たらない。

 

日本政府の対ウクライナ支援策などの遂行ぶりに比較して、民間専門家やメディアによる努力は劣っていると言わざるを得ない。米ソ冷戦の真っ只中で外務省に勤務していた筆者の個人的な経験を振り返ってみても、官民協力による地道なロシア国内情勢のフォローが重要であると信じている。どうしたら具体的な政策が真剣に検討されていくのだろう。読者の皆様から意見をお聞きしたい。(了)