トランプ大統領は、「最後のあがき」をみせる衰退国アメリカの象徴か?

 

現在アメリカは、冷戦期終了後のような世界に「睨みを利かせる」力を持ち合わせていない。2009年1月に始まったオバマ大統領時代に国際社会において顕著となってきた超大国アメリカの衰退傾向は、現在の国際秩序を根底から揺さぶっている最大の要因である。オバマ以降トランプ、バイデン、トランプ2.0と大統領が交替していく中で、国際情勢はますます流動化している。超大国が静かに力を失っていくのであれば、それをうまく吸収しつつ国際秩序は徐々に変化をしていくことも可能であろうが、個性の強いトランプ大統領の再登場によって、アメリカがまだ力を発揮できるところを狙って、武力行使による平和、時には、平和の見通しのない武力行使を行うようになり、グローバルな平和と安定は壊されてしまった。今後、大国を中心にして新たな力の均衡を図っていく努力が行われるようにならない限り、国政情勢は不安、不確定なままで推移していくことになろう。よもや第3次世界大戦が勃発するようなことにはなるまいが、私たち一般人は、個人の生活を守っていくためにも、世界の情勢を注視し、適時に適切な「手(措置)」を講じていく必要性がでてきた。つまり、一般人と言えども、政治についての常識を持ち、政治家に対して積極的に働きかける必要性がでてきたのだ。

 

比較的安定した環境の下で冷戦後40年間ほど続いた国際情勢と現在の国際情勢を比較した場合、アメリカの大統領の持つ、自由・民主主義、多国間貿易体制、法と秩序といったグローバルな価値観順守の姿勢が変化し始めていることが、大いに気になる。たとえ民主党の大統領がグローバルな価値観を口にしたからと言って、実際にはそれに反する政策を取り始めていたのである。第2期目のトランプ大統領が、「アメリカ第一主義」の価値観を前面に押し出し、グローバリズムを軽視する政策を次々に実施していることは由々しい事態である。

 

トランプ大統領は、衰え行く大国の「最後のあがき」を具現化しているようにさえ思えてくる。アメリカのこうした姿を「ほくそ笑んで」見ているのが、東西冷戦時代の東側に属していた幾つかの国々である。中でも国際秩序形成に影響力を持つロシアと中国は、「のたうち回る」トランプ政策によって、大きな漁夫の利を得ている。ロシアにおいては「失地回復」、中国においては「グローバルの覇権国」確立への努力が顕著に見られており、これら2国の今後の動向から目を話すことはできない。

 

かつてソビエト社会主義共和国連邦は、アメリカと並んで超大国として恐れられていた。しかし1989年のベルリンの壁崩壊を契機にして崩壊の道をたどり、1991年に13のソ連構成共和国はそれぞれ分離・独立した。そのうち最大のロシア・ソビエト連邦社会主義共和国は、ロシア連邦として独立し、一時は自由主義、資本主義の体制を目指したが、やがてプーチン大統領の下で、旧ソ連と同じような権威主義的な体制に回帰し、いまやツァーリ(皇帝)時代の「ロシアの栄光」を取り戻そうと躍起になっている。

 

しかし、ロシア連邦は他の旧ソ連構成共和国を「取り戻す」だけの力は持っていない。例えば、ソ連時代のコーカサス、中央アジア地域の国々に対しては、そこそこの協力関係を結ぶことができているが、欧州部に属していた国々のほとんどは、西側の自由民主主義体制に組み込まれ、プーチン・ロシアの自由にはならない。ウクライナとベラルーシについては、つとに歴史的・文化的一体性を唱えていたロシアは、周知のように、ベラルーシとの関係を密接に保ちつつ、2024年2月ウクライナに対して侵略戦争を開始してしまった。ところがウクライナからの強烈な抵抗に遭って、早期戦勝の目論見はすっかり狂ってしまった。ウクライナの東部及び南部地域に突入したロシア軍は、今では塹壕に閉じ込められたままで、なかなか戦線を前に動かすことができない。戦争開始から5年目に

入ったウクライナ戦争は、膠着状態の中で、お互いの殺戮行為を際立たせている。

 

プーチン大統領は、ウクライナ侵略に国力の多くを割き、核兵器の使用の脅しまで使って何とかして「勝利」の形を取りたいと懸命であるが、前途多難である。これに対し、NATO諸国からの支援が死活的に重要となっているウクライナのゼレンスキー大統領についても苦労は多く、継戦能力維持のためアメリカと並んで欧州における民主主義諸国との関係強化に全力を傾けている。

 

中国は、中ソ対立を乗り越え、冷戦終了後も着々と経済的発展と政治的・軍事的影響力の増大を図ってきている。高度成長型経済発展には限界が見えてきたが、中国は習近平主席の下、「運命共同体」、「一帯一路」などの計画、構想、戦略を作り、不断に自国勢力圏の拡大に努めている。一時期、米中対立による「新冷戦」が近未来の国際秩序の基本になると言われたこともあったが、トランプ大統領第2期を迎え、民主主義諸国とアメリカとの対立が顕著になったことから、それも不確実になった。「新冷戦」下で新たな安定を図るためには、アメリカと他の民主主義諸国との連携強化が前提となる。当面それは期待できず、世界的な規模におけるアメリカの衰退と中国の着実な勢力伸張が続いている。

 

習近平政権は、かつてアメリカが主導権を握って進めてきた「グローバリズム(WTO体制の強化、国連の安保機能の強化、法と秩序の尊重、人権擁護など)の騎手」の地位に中国が取って代わるかのような発言を行うようになっている。しかし、その発言も多分にリップサービス的であり、対外宣伝の域を超えておらず、具体性に欠けている。一方、今後とも長期にわたって中国が「覇権国家」の路を進んでいくとするならば、中国型「グローバリズム」が自由・民主主義型「グローバリズム」を超えてしまう恐れがあり、注意が必要である。

 

グローバル・サウス諸国の中では、インドの発展が目覚ましいが、グループ全体をまとめていく「力と意思」に欠けている。グローバル・サウス諸国が一体となって米中ロといった大国に伍していく可能性は小さい、と考えた方が無難である。一方、グローバル・サウス諸国は、自国の経済的利益を求めて、イシューごとに米中ロと関係を深めていく可能性は高い。その意味で、グローバル・サウスは、国際情勢の攪乱要因になるおそれもある。私たちは、インドに限らず、ブラジル、インドネシアなどの動きも注意深く見守る必要がある。

 

国際新秩序を考える場合、無視できないのが、かつてブッシュ大統領が2002年一般教書演説で「悪の枢軸」と呼んだ国々の動向である。中でも日本に大きく関係する国は、イランと北朝鮮である。トランプ大統領は、イランの核開発については極めて厳しい対応ぶりを示しているが、日本の安全保障に大きな影響を与える北朝鮮の核兵器保有問題については、ともすれば金正恩総書記に宥和的である。このような二律背反的な外交・軍事政策を平気で行うトランプ大統領に日本政府はどのように対処するのが適切か、頭の痛いところである。イラン戦争の日本経済に与える長期的な影響も頭痛の種である。

 

さて、今後どのような時点で、トランプ大統領、習近平国家主席、プーチン大統領が、それぞれ自国の利益追求第一主義を若干なりとも緩め、各国間協調による「落ち着いた国際新秩序」の建設に少しでも関心を示すかどうかは、全く不明である。そのような機会は全く現れないかもしれない。その中でトランプ大統領とプーチン大統領は、問題解決のために武力行使という手段を取ることを厭わないが、習近平主席については、世界の目がアメリカやロシアに向かっている間に着々と世界各地において地歩を固めつつあることには注目する必要がある。私たちとしては、中国の動きを中長期的には警戒しつつも、短期的には米ロが紛争を話し合いで解決する方向に進むような建設的な役割を果たしていくことに期待したくもなる。欧州諸国や日本などが、中国に働きかけをする余地はあるのだろうか? (続く)(20260427)