筆者は月末にロシアのウクライナ侵略を巡る本を上梓する予定だ。拙著のメインテーマの一つが、文化の賢い活用だ。文化とウクライナ戦争の関係については、別途語ることにし、ここでは、金日成、金正日と続いた朝鮮半島統一の旗印を降ろした金正恩の新路線の持つ意味合いについて問題提起したい。

 

朝鮮半島情勢は、日本の安全保障にとって死活的な重要性を持つ。金正恩の路線変更は、ウクライナ戦争を巡る露朝関係の進展に直接的な関係を持つものか、中国はどのように評価するのかなどなど、私たちは今後慎重に分析していくことが必要だ。

 

国連制裁が続き、北朝鮮の人たちの経済的な不満が体制批判につながることを恐れる金正恩政権は、特に韓国の豊かさを伝える映画、TVドラマなどがSNSを通じて国内にこれ以上拡大することに危機感を持っているとの朝鮮問題専門家(日本人)のコメントが、最近報道された。韓国からの「文化侵略」を恐れているとの趣旨である。日本の人たちにとっては、このコメントは、奇妙なものに聞こえるかもしれない。

 

私たちが忘れてはならないことは、文化は為政者にとって宣伝の先兵になり得ると同時に、為政者の政治的な基盤を揺るがす源泉にもなり得ることだ。私たちは、文化の持つこの二面性をよく念頭に置いた上で、「金王朝」の今後をフォローしていく必要がある。Kポップや韓国ドラマが短期的に北朝鮮の内政に大きな影響を与えることは予想し難いが、「諸刃の刃」を持つ文化の力が、やがて金正恩礼賛政治の足元を揺るがすことは、あり得るシナリオだ。ポピュリズムに訴える手法によって、若き指導者金正恩が墓穴を掘ることがあるかもしれない。北朝鮮情勢から目をそらすことはできなくなった。