20220712

 

                                     岸田内閣であって初めてなし得ること

                              -参院選の結果と辺野古問題-

 

1 沖縄選挙区の結果と辺野古問題

 

7月10日に投開票が行われた参議院議員選挙の結果、沖縄選挙区ではオール沖縄勢力の支持する現職無所属候補は、2888票という僅差で自民党公認候補を破り、当選しました。選挙期間中、両候補は、普天間飛行場の返還と代替施設の辺野古移設・建設問題については、前者が「反対」、後者が「賛成」との立場から、論戦を繰り広げました。オール沖縄勢力の支持候補が当選したことから、辺野古移設に対する現時点での沖縄県民の民意は、「移設反対」にあると結論付けることができるでしょう。

 

同時に注目すべきは、2014年に始まった翁長雄志県政以来、これまで顕著に示されていた「移設反対」の民意が、今回は僅差で「賛成」を上回るにとどまったことです。特に、玉城デニー県政で実施された2019年1月31日の「辺野古米軍基地建設のための賛否を問う県民投票」において、投票者の7割強が「反対」と意思表示していたことを思い出すならば、その間に何が起きているかについて、分析が必要となります。

 

近年行われた各種県民世論調査によれば、日米同盟を是とする意見が回答者の過半数を超えています。一方、県民の日常生活の安全・安心を脅かす恐れのある「米軍基地問題」については、懸念を持つ人たちの声が大きいという結果が出ています。沖縄担当大使時代、私は、日米同盟と米軍基地問題を巡る民意は、肯定的な立場と否定的な立場がほぼ拮抗しており、しかもそのどちらも過半数に達していない、と解説していました。これに対して岡本行夫総理大臣補佐官は、県民世論を3等分し、是とするもの3割、非とするもの3割、態度不明が3割として、米軍基地問題を進めるためには、政府は態度不明の3割にお理解を得るように努める必要がある、と述べていました(詳しくは、拙著「普天間飛行場、どう取り戻す?-対立か協調かの選択肢-」参照)。

 

要するに、米軍基地問題一般についても、辺野古問題についても、県民世論は分裂しているのです。そのような中で、新たな基地負担が増えることへの是非を問うと訪ねられるならば、仲井眞弘多元知事が述べていたように、多くの県民が「反対」と答えるのは、むしろ当然のことでしょう。

 

殊に故翁長知事と玉城知事が、普天間飛行場の返還による県民負担減よりも、代替施設の辺野古移設・建設による負担増に集中した県政を運営してきたことにより、現在もなお沖縄県では、普天間移設反対が民意であると考えても、不思議ではありません。それにもかかわらず、今回の参院選において、何故辺野古問題に対する賛否の差は非常に縮まりました。その理由は何でしょうか?

 

恐らく、県民は、完成が10年後になる辺野古移設・建設プロジェクトよりも、目の前の経済問題の方が、より切実と考えたためでしょう。そして沖縄振興については、オール沖縄勢力よりも、既に数々の実績を積み重ねている政府与党に対して、大きな期待を寄せているためでしょう。一方、将来の沖縄に明るい展望を持つためには、こうした短期的な要因を念頭に置くだけでは十分でありません。

 

2 辺野古移設と基地負担軽減問題

 

辺野古移設・建設問題については、50年前の沖縄返還協定締結に際し、沖縄県民が強く求めた「本土並み基地負担」問題との絡みを理解することが重要です(詳しくは、拙著「2022年の沖縄-新たな門出とするために-」をご参照ください)。

 

沖縄返還に際して屋良朝苗初代県知事は、米軍基地負担を本土並みに軽減して欲しいとの強い県民の要望が実現しなかったことに対して、複雑な気持ちを吐露していました。沖縄返還以降も、県民の期待は実現の方向に向かわず、国土面積の0.6%に過ぎない沖縄県土に、日本全国における駐留米軍施設の約7割がまだ存在していることは、大きな問題です。辺野古問題は、「本土並み」に対する県民の強い願いの枠内で、捉えていく必要があります。

 

玉城知事は、普天間代替施設建設先の大浦湾側に軟弱地盤が見つかり、地盤強化のための追加作業のために建設期間が延長され、しかも建設費用の大幅の増加が見込まれている問題を大きく取り上げ、「辺野古新基地」建設反対の立場を主張し続けています。これに対して政府は、新たな埋め立て計画を県に示し、移設の実現を図ろうとしています。

 

この他、地球温暖化防止のための措置、日本の財政悪化、ウクライナ戦争を契機とする防衛費増の必要性など、従来以上に県民の基地負担を増加させる要因についても、議論が活発化しています。政府としては、こうした諸問題を包括的に捉えた政策立案が重要です。

 

3 現行辺野古移設・建設計画の縮小変更の実現のために

 

包括的な課題については、政府も沖縄もここで一度立ち止まって、将来の見通しについて、相互理解を深めるべきです。上記の拙著で強調しているのは、軟弱地盤が発見された箇所については、建設をしないことが重要であると指摘しています。軟弱地盤が始まる手前で滑走路の建設工事を止めることを通じて包括的な解決を図るという意図に基づく提言です。

 

包括的な解決方法を図ることによって、現行移設・建設計画を具体的にどの程度の縮小変更が可能かについては、日米両政府間、日本政府と沖縄県の間で話し合った結果によります。ともかく政府側も沖縄県側も、対立の激しい問題点を乗り越えるため、お互いに知恵を絞ることが重要です。両者が一つのテーブルに座って、知恵を出し合うメリットは非常に大きいと考えます。稲嶺元知事がよく言うように、「オールオアナッシング」は改める必要があります。「条件闘争」に転じるという発想の転換は、今回の参院選で大きな勝利を得た岸田政権にして、初めて検討し得るところであると信じます。

                           -了-