20220410

ウクライナ戦争と沖縄米軍基地(13)

-日本として実行可能性のある国際協調について-

 

連日ウクライナの無辜の民に対するロシア軍の残虐行為がテレビで報じられています。早期停戦を実現するため、日本としても何か積極的な貢献はできないものかと、焦りを深める人が多いことでしょう。今後の貢献策について検討する際、私たちが依って立つ基本的な姿勢を再確認する必要があります。私たちは、ポツダム宣言の受諾・敗戦の結果として受け入れた日本国憲法の下、第3国に軍事支援をしたり、軍事的に介入したりすることは許されません。G7など民主主義諸国と協調しつつ、人道支援、対ロ経済制裁など非軍事的な措置に限られます。それだけに、質の高い支援策、国際協調策を推進していくことが求められます。

 

現在の国際社会は、かつての連合国側と枢軸国側、欧米民主主義陣営とソ連東欧社会主義陣営といったような明確な対立軸がありません。特に経済関係については、各国間の相互依存関係が進んでいて、対立軸が不明確になりがちです。バイデン米政権発足後、民主主義諸国と権威主義諸国の対立軸が強調され始めましたが、この2月24日、ロシアが隣国ウクライナを侵略し始め、しかもロシア軍による残虐行為が明らかにされるに至り、民主主義諸国、ロシア、及び権威主義諸国の三つ巴の図式が浮かび上がりました。こうした状況下で、第2次世界大戦を契機に創設された国連体制は大きな危機に直面しています。

 

ウクライナ戦争後を見据えた「新国際秩序」について議論が始まっていますが、国連に代わり得るグローバルな安全保障体制を新たに創設することは、現実性に乏しいと言わざるを得ません。第3次世界大戦を回避しつつ、国連をウクライナ戦争前の状態に戻す以外に現実的な選択肢はありません。特にNATOやEUの加盟国ではなく、ウクライナ戦争の直接の当事国ではない日本としては、権威主義諸国の存在を前提とした上で、平和裏に「プーチンなきロシア」の実現を模索せざるを得ません。

 

このような制約を背景としつつ、日本としては、ポスト・ウクライナ戦争をも視野に入れて、国際貢献の在り方を検討していくことが必要です。

 

先ずは、経済制裁の分野でどこまで国際協調を貫くべきか、を検討することです。ウクライナ戦争が継続する中で、ウクライナ国内に建設されているロシアの対欧ガスパイプラインは平常通り動いています。また、OPEC加盟国は石油生産を増産しようとしていません。こうしたこともあって、当面ロシアが外貨不足に悩む状況にはなりません。しかし、EUがロシアからのエネルギー資源の供給を停止する決断をする場合には、日本としてもサハリン2からの天然ガス供給を検討せざるを得ません。国連体制の崩壊を防ぐため、日本としてもその供給を停止する覚悟があるかどうかを、検討しておくことが求められます。

 

国際人道法に反する可能性の高いロシア軍兵士の残虐振りについて、或る軍事問題専門家は、当初人は大きな怒りを感じたとしても、連日同じような状況を目にするならば、やがて慣れがきてしまう、と述べています。確かにこれは悲しい人間の性です。これに抗うためにも、私たち日本人は、平和的手段で事態を停戦→休戦→和平へと進ませる方途について、知恵を絞り続けることが重要です。

 

或る外交評論家は、政府、特に外務省には、停戦に持って行く真剣な外交努力が十分でないと述べるとともに、外交である以上、当時国の一方に満額回答を与えようとする仲介は現実的でないと述べています。これは、今ウクライナで生じていることが、古典的な戦争、ロシアの侵略戦争とウクライナの祖国防衛戦であることを、正しく理解していないコメントであると考えます。ロシアの一方的な侵略が続いている間に、日本が「痛み分け」のような提案をすれば、プーチンを喜ばせるだけです。

 

日本は欧州からは地理的に離れていますが、アジアと欧州の二つの顔を持つロシアに対して、いま甘い対応をすべきではありません。北方領土問題を抱え、日本周辺で軍事的挑発行為を続けるロシアに対し、日本政府は、警戒感を緩めてはなりません。日本政府は、ゼレンスキー大統領の進める政策に対し、積極的に協力すべきです。ウクライナの足を引っ張ってはなりません。

 

また或る外交評論家は、早期停戦を実現するため、国民投票の早期実施を提案すべきであると述べています。これはプーチンがドンバス地域で公平な国民投票を実施することを前提としたかのような議論であり、実現性は見込めません。国民投票を実施するとしても、それはあくまで停戦から休戦へと事態が変わった後のことです。

 

或る自衛隊OBは、自分の知っているロシア正規軍幹部がキーウ(キーエフ)周辺やドンバス地域で殺戮を命じているとはとても思えない、と繰り返し発言しています。一方、内務省所属部隊や旧KGB所属部隊がウクライナ市民殺戮の実行部隊であるかどうかは、全く不明です。プーチンと赤軍の間に隙間風が吹くことは歓迎すべきことでしょうが、国民をミスリードする発言は慎むべきでしょう。

 

或るウクライナ専門家は、いまウクライナで展開されているのは、ロシアとアメリカの代理戦争であると解説しています。これは「代理戦争」という用語の使い方を間違えているだけでは済まず、NATO、EU、日本を含むその他の民主主義諸国のウクライナ支援に水をかけるコメントであると思います。

 

或る民放TVのキャスターは、駐日ロシア大使にインタビューし、ロシア軍による残虐行為を取り上げました。ニュースキャスターの使命は、適切な質問を行い、相手の本心を引き出すことにありますが、自分の方から感情的議論を展開し、まんまとロシア大使の術策にはまってしまいました。ウクライナ戦争に関し、特にテレビ報道の編集責任者には、全体的な状況が国民に正しく伝わるよう工夫していただく必要があります。CNNやBBCに比較すると、その感を深めざるを得ません。

 

私たち一般国民、各分野の専門家、メディア関係者は、ともに切磋琢磨して、日本としての国際協力の在り方を向上させていく必要があると考えます。