コロナと普天間・辺野古問題(構造的沖縄差別論) (vol.5-20100813)

 

新型コロナウイルス感染が拡大する中で、医療従事者や感染者に対する差別意識、“自粛警察”、国や都道府県によるお盆休暇の”自粛“要請の下で故郷に帰省する人や夏季休暇に出かける人たちなどなどに対する差別的言動が、頻繁に報道されています。憂慮すべきことです。差別意識は人間社会の宿痾ですが、良識・常識をもってその拡大を防止していくことは、私たちの責務です。

 

拙著「普天間飛行場どう取り戻す?」では、沖縄県内外の人たちが相互に持つ一般的な差別意識、被差別意識というよりも、「構造的沖縄差別論」を取り上げています。沖縄県内では「構造的差別」という表現は、「琉球処分」に始まって、沖縄戦以降存続している沖縄の米軍基地の偏重という状況を描く際に、よく使われます。本土の都道府県に比較して沖縄県の基地負担が過重であること、また、この過重負担に本土人たちが無関心であることを、糾弾する表現です。

 

一方、本土では、「構造的沖縄差別」と言われてもピンとこない人たちが多いことでしょう。日本国憲法をはじめ関連する法令は、沖縄県や沖縄県民を構造上差別する規定はしていません。沖縄県内に米軍基地が集中しているのは、政府の政策判断の結果であって、構造的なものではない、沖縄県民には申し訳ないが、歴史的経緯もあるから致し方ないといったことが、本土の人たちの大方の見方でしょう。

 

拙著第五章「沖縄の歴史問題」第六節「構造的沖縄差別論」では、太田元県知事の持論を紹介し、第6節「沖縄の未来志向」では、これと対照的な琉球大学の三教授(当時)の見解を取りまとめた「沖縄イニシアティブ」をそれぞれ紹介し、この二つの代表的な見方が収斂していく可能性があるかと問題提起しています。 

 

普天間・辺野古問題との絡みでは、現職の沖縄県知事の立場が一番重要になります。故翁長前知事は任期中に、この構造的差別論を頻繁に取り上げました。翁長前知事の後継者である玉城現知事は、この問題を正面からは取り上げていません。同時に、否定もしていません。

 

私が拙著で強調している点は、「構造的差別」を論じるよりも、政府と沖縄県が協調して「本土並み」基地負担の軽減に取り組むことの重要性です。基地負担軽減の進展によって、「構造的差別」問題が沖縄県民の意識から次第に薄れていくことを期待し、実際的な立場から具体的な提言をしています。「構造的沖縄差別論」に関心のある方は、拙著に目を通していただければ、と思います。