厚さ2.7㎝ほどもあるボリュームたっぷりの文庫本。カメラマンのはなしは好きだ。著者のことは知らなかったけれど迷うことなく購入。裏表紙によると、‘戦場と化したローデシア、南アフリカ、エルサルバドル、レバノン、アフガニスタン、イラン、フィリピンの紛争現場に、カメラを武器にたった一人で立ち向かったフリーカメラマン’だという。
80年、27才で時事通信社を辞めフリーのカメラマンになった。70年代前半に同志社大学探検部を6年かけて卒業したというが、ちょうどその時期にベトナム戦争がたけなわ、沢田教一、一ノ瀬泰造、岡村昭彦らビッグ・ネームに憧れて写真を本格的に学んだという。通信社を辞めたのは、‘自分でニュースを選択できず、私の望んだ現代史の現場への取材はできない。自分で行きたい場所に自分を特派するしかない’と考えたからだった。
ドンパチやっている最前線の写真は無い。無名の戦士たち、女子供の普段のおだやかな姿が多い。特筆すべきはアフガンの英雄マスードに密着していること。多くの時間を共に過ごし語り合い、思慮に富んだリーダーの姿を伝えるその写真は静謐だ。著者は‘カメラという武器を構える者は、同時に人間としての姿勢も問われる’という。一冊をとおしてほぼ著者の目の前の人、できごとだけに焦点をあてて文章が書かれているが、その筆勢は常に冷静で写真家である前にひととしてのできのよさが伝わる。
髯面の著者。回教徒だ。
昭和62年
講談社文庫
長倉洋海 著
購入価格 : \110