特攻基地知覧 | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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昨年末、路傍に積んであった‘さしあげます’の本の山からつまみ上げたもの。ちょうど昨秋に知覧を訪れたばかりだったので、そういうタイムリーな本は優先的に読む。高木さんは報道班員として知覧にいた人だったので、地理や軍のシステムに詳しいだけでなく、上級士官のほとんどは肝胆あい照らす仲であり、亡くなった特攻隊員にも知己が多い。

 

いくつかの章があり、ひとつひとつに主人公となる隊員がいる。これは高木さんの執筆方針だったと思うのだが、そのなかに喜んで死んでいった隊員はいない。どころか、死にたくなくて何度も出撃後に帰って来るような、およそわれわれが現在想像するような特攻隊員とは異なる男たちのはなしが複数ある。帰って来る理由が新妻だったり恋人だったりする。そのあたりの‘らしくない’エピソードが細かく掘り下げられて文章化されているのは、意外と珍しい。当時の女学生、旅館の女中といった地元の女性たちへの取材も綿密、本当にお気の毒な境遇を迎えねばならなかった方へは同情の念を禁じえない。特攻の母トメさんがほぼすべてで隊員のみならず、全身全霊で彼女たちを終始支える。戦後もずっと。

 

高木さんといえば陸軍特攻の重要責任者のひとり菅原道大との戦後のやりとりが有名だが、その菅原による無責任な弁明を引用しつつ厳しく特攻そのものを糾弾する。知覧の特攻平和会館について‘町当局はこれを名所に仕立てて、町の繁栄策としている’といい、そのやり方が‘戦時中の軍部の思想そのまま’だと断じる。俺も現地でまったく同じ感想を持った。‘特攻隊を美化し、そのために賛美の情が残るとしたら、いつの日か、再び特攻隊を渇望することにならないとはいえない’と高木さんは危惧する。

 

昭和48年 (原著は昭和40年)

角川文庫

高木俊朗 著

 

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