城山三郎が娘に語った戦争 | 健全なVINYL中毒者ここにあり

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俺にとって城山三郎は、水上勉、宮本百合子と並んで‘いつか読まねば’という三大作家の一人。そんなたいそうな意気込みを持っているが、今まで読んだことがあるのは‘男子の本懐’、‘官僚たちの夏’、‘指揮官たちの特攻’と(★)以前紹介したこれだけ。目の前の積ん読本の山に何冊かあるのだが、それらを読む前の心がまえ醸成によさそうな一冊。著者は城山さんのお嬢さん。昭和34年生まれの方だ。

 

妻を愛するやさしいお父さんのはなしと、戦争についての厳しい発言、行動というふたつの側面について語られる。海軍に少し在籍歴があり、最前線ではないにしろ戦争の当事者ではあった城山さん。家族にはあまり戦争のはなしはしなかったそうだが、亡くなるちょっと前(平成19年に亡くなった)からよく話すようになったという。その他そういえば、と紀子さんが思い出す形で語られる自分で軍歌のレコードをかけて嗚咽していたというシーン、茅ヶ崎の仕事場からよく見える海岸が、伏龍特攻隊((★)これ参照)の布陣予定域だったことがわかってショックを受けていたというはなしが印象的だった。

 

そして再後期に全精力を傾けていたのが‘個人情報保護法案’への反対活動だった。‘戦前の治安維持法にもつながる悪法で運用しだいでは言論統制法につながる’と。まったくそのとおりで、以来すっかり縮み上がった報道と、それを当然のごとく受け止める報道機関と我々国民の姿を見たら、城山さんはなんて言って嘆くのだろうか。

 

平成21年

朝日文庫

井上紀子 著

 

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