ああ、東大生のグループが編んだ学徒出陣の記録だな、と思って手に取った。帯を見ると‘東大国史学科18年入学者の綴る戦争体験’とある。名簿を見ると、色川大吉さんがいるじゃないか。よくぞ皆さん戦場から帰ってきてくれました、読ませていただきます、てな感じで読書スタート。
同級生32名のうち19名による文章を掲載。巻末に32名全員の軍歴が、時系列に棒グラフで示されている。それぞれの文章を読みながら他の級友と比べてこの人はどうだったかしら、といちいち見比べた。体が悪かった人、進んで事務関係の軍務に就いた人を除いて、みごとに全員陸海軍に入隊させられている。終戦時は多くが少尉、幹部候補生くらい。一兵士でとおした‘はねっ返り’の存在が頼もしい。
読みすすめてゆくうち、‘おや?’と思った。誰も戦場に出ていない。みごとに全員が訓練中や学校在籍中に終戦、ひとりも戦死していない。昭和18年の学徒出陣ではいろいろ数字はあるが、全体の9%が戦死したとみられている。ここでは、なんだかんだいって東京帝大生は大事にとっておかれた様子がうかがえる。よってここに収録されている文章は、戦争とはなにか、その最中に学生であることへの懊悩などについてばかり。一兵士の最前線での記録ではなくて、東大生が考えた戦争についての論考集だ。みんな二十歳くらいで、しっかりと考えていたんだなあ。
昭和43年
中公新書
東大十八史会編
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