太平洋での戦いの最終盤1945年7月30日に米重巡インディアナポリスが沈没する。撃沈したのは日本海軍の伊58潜水艦。第二次世界大戦最後の大型艦の沈没‘事件’となり、乗員900名弱が死亡した。現在に至るまで米海軍にとって、ひとつの事例における最大の人的被害をだしたできごとだ。普通に考えれば交戦国間の被害と戦果であり、ひとつの不幸なできごとに過ぎないのだが、これが‘事件’となったのは米側の事情による。その‘事件’を米作家の目でまとめたものであり、訳者は元日本海軍参謀。沈没の様子と、それに続く裁判を詳述した書。
魚雷3本が命中しインディアナポリスは瞬時に全艦電源喪失、被雷の打電も(結果として)できぬまま沈没、沈没の事実を米海軍が知ったのは沈没から4日後だった。戦後、生き残ったチャールズ・B・マクベイ艦長は被雷時にジグザグ航行をしていなかった、被雷後の適切な処置を怠ったという疑いで裁判にかけられる。第二次大戦中の戦闘で撃沈された艦艇の艦長が軍法会議にかけられたのはマクベイ元艦長ただ一人だった。結局有罪判決を受けた艦長は68年に自殺している。勝ち戦の中のちょっと不幸な事故と考えてもよさそうだが、アメリカは徹底的に責任を追及する国である。結果よしの出来事でさえ、責任者の処罰はありえる。
あれは確か90年代の日本のテレビ番組だったが、戦後に米軍によって海没処分される伊58潜水艦の様子を映したフィルムをまだ存命だった橋本以行(もちつら)元艦長に見せている場面があった。インディアナポリス撃沈時の艦長だ。京都で神社の宮司をしていた橋本氏が静かに画面を眺めている姿を見て、こっちが涙を流したことを覚えている。橋本氏は2000年に亡くなった。
昭和59年(原著は日本では昭和34年に出版)
朝日ソノラマ
RICHARD F. NEWCOMB 著 (原題 : ABANDON SHIP ! )
亀田正 訳
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