「夏の終わり」
夏の風が秋の風に変わろうとしている頃。
一通の知らせが来た。
「え……?」
嘘でしょ……?
あたしの頭の中は混乱していた。
この会社に勤めて10年ちょい。
その間、いつも良くしてくれていたおじさんが急死した。
数年前に定年で会社を辞めてその後、会社の方から「手伝ってくれ」と言われてバイトという形で会社に戻って来た。
仲良くしていたおじさんだから、会社にいることが嬉しかった。
でも去年、「身体がもうついていかないから」という理由で再び会社を去った。
会社を去ってからも仲良くしてくれて、ちょこちょこと仲間内で飲みに行ったりしていた。
結構お酒が好きな人で、みんなと飲むのが好きでワイワイと楽しくやっていた。
みんなおじさんがいると笑顔だった。
そんなおじさんが体調崩したって聞いたのは今年の夏の始まり。
その時、仲間内の誰もが酷いものだとは思わなかった。
そして先週。
会社に連絡が入った。
「ねぇ!山郷さん、亡くなったって!」
その言葉に耳を疑った。
それを言った子に「なに、冗談言ってるの?」と言ったくらいだ。
その真相を知りたくて、退職した仲間内に連絡した。
仕事中なのにメールを入れて、その返事を待つ。
仕事をしながらその返事を待つあたしは、ソワソワと落ち着きがなかった。
その数分後。
返信が来て「分からない」と告げられた。
そしてその子がおじさんの携帯に連絡を入れた。
そしたら、弟さんが出て「今日亡くなりました」と言われたらしい。
そのことを聞いた子が電話をして来た。
仕事中だったあたしはそのまま出ずに切った。
でも、また電話がかかってきて仕方なく電話に出たあたしの耳に聞こえたのはその子の泣き声。
何を話しているのか分からない声で訴えてる。
でも、仕事中というのもあって話は聞けずに「ごめん」と切った。
会社の回覧で「亡くなりました」と回って来たのを見ても信じられなかった。
葬儀は平日に行われた。
月末で仕事が忙しいのもあって、あたしは御香典だけを行く人に渡した。
その人から御香典返しを貰った時も、信じられなかった。
死因は癌。
そう見えなかっただけに、ショックだった。
でも涙が出なかった。
葬儀の場に行かなかったからなのか、死んだって事実を受け入れられなかったからなのか。
涙は出てこなかった。
「でも……」
同僚が言った。
「笑ってる方が喜んでくれてるよね。泣いてたら怒られちゃうよ」
その子はそう言って笑った。
その子につられて私も笑った。
だけどね、まだ信じられないんだ。
あんなに元気にしていたあのおじさんが、今はもういないなんて。
だって数ヶ月前に会った時は元気だったんだよ。
その姿しか見てないんだよ。
だから、まだ信じられないんだ。
「忘れちゃ、いけないんだ」
ポツリと言ったあたし。
その言葉を聞いた同僚があたしに振り返る。
「山郷さんがいたってことを、生きていたってことを、あたしたちは忘れちゃいけないんだ」
「うん……」
しんみりとした空気の中、あたしは仕事をしている。
表向きは明るく仕事をしている。
でも。
まだ心の中は本当に明るくはなれない。
本当の笑顔はまだ、出てこない。
「あ」
会社の外に出ると、少し冷たくなった風があたしを包む。
「もう、夏も終わりだね……」
夏の終わりにおじさんは逝った。
あたし、忘れないから。
きっとこれからも忘れないから。
だから、見守っててね。
Fin
※この小説は琉嘩が書いたものです。
気にしないで下さい。