☆ハーレム日記リバイバル☆ 第105-1号 ARCドラッグ中毒患者によるゴスペル | NYで生きる!ベイリー弘恵の爆笑コラム

☆ハーレム日記リバイバル☆ 第105-1号 ARCドラッグ中毒患者によるゴスペル

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                 第百五号 06/16/2001
              Harlem日記
           
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*****ARCドラッグ中毒患者によるゴスペル*****

「ヒロエちゃんもさぁ、一回ツアーにおいでよ。絶対いいからさ。」というトミーさんの気軽な誘いにのせられて、トミーズツアーに参加することとなった。

「いつも水曜日に案内するのはね、ARC<麻薬中毒患者リハビリ・センター>の患者たちによるゴスペルなんだ。彼等はゴスペルによってドラッグ中毒から立ち直ろうとしてる、つまりゴスペルを歌うことがリハビリの手段なんだ。」というトミーさんの説明。

うーん、それってジャンキーな痩せた人たちが陰気臭く手拍子でラップっぽいゴスペルでもやるんじゃないの?と勝手に私の想像ではヒップホップのギャングスターが腰を曲げて前傾姿勢でリズムをとり

 

『ヨーヨーWhat's Up! メェーーーン』と中指を立てている姿が浮かんでいた。

「9時15分くらいにヒロエちゃんとこに迎えに行くからさ。」というトミーさん。

当日になると、9時ちょっと過ぎに電話が鳴った。あれ?ちょっと遅れてるとかって電話かな。と受話器を握ると「今、下にいるからさぁ。」とケータイからトミーさんの声。

えぇーっ!シャワーの後で、まだ髪の毛乾いてないよー。とジタバタしながら「はっはいっ。今下りていきますから。」と慌ててバッグを片手に飛び出す。
 

時間厳守なトミーさん、予定時間を遅れると叱られるというのは有名な話。観光客だからといって甘やかさない。

彼は、ハーレムの地元の人たちを相手にビジネスしている。ハーレムの人々は時間にルーズ。だからといって時間にルーズなのを放っておいたら、ビジネスは成立しない。そういった環境だから時間に厳しいのだろうか?

日本から来た観光客の人を迎えにシェラトンホテルへ。セントラルパークを抜ける途中、既にトミーさんがガイドしてくれる。このセントラルパークの中にさえも地名があるのだと初めて知った。

 

ラスカルやストロベリー、全てに由来がある丘や広場。それはトミーさんと一緒じゃなきゃー一生知らないことだった。

シェラトンホテルに到着。観光に参加する人は男女数名、年齢はバラバラだ。皆カジュアルでも教会へ行くためにジーンズ姿の人はいない。

トミーさんは運転しながら、どうしてブラックばかりのハーレムになったのかというハーレムの歴史や、様々な民族ごとの文化・風習そして、彼が大好きなジャズの発祥についてもガイドしてくれた。

実は、私も初めてニューヨークに来た時、ある旅行会社のハーレムツアーに参加したことがある。ガイドは「ドラッグディーラーがそこにいる。あいつもドラッグ売っている。」などと、アフリカン・サファリのライオンを見て脅やかすように、くだらないことしか教えてくれなかった。

それに比べ、トミーさんはハーレムについてブラックのカルチャーについて、生き字引のごとく何でも知っている。特にジャズの話をさせたら、顔がほころぶ。

語りだしたら止まらないほど溢れ出すジャズやジャズマンについてのエピソード。

さて、いよいよ教会に到着。最初に一人ずつ私服の人がマイクを握って話していた。「私はドラッグにはまってましたが、神によって救われました。」小さな声でボソボソと話す黒人女性。

 

「スピーク・アーップ!(もっと大きな声で)」席にいる人が叫ぶ。

「神のおかげで立ち直ることができました。神に捧げます。」と歌いだす人もいる。


これはドラッグに溺れていた人たちの宣誓だ。2,3人の宣誓が終わるとARCというマークのついたオレンジの衣装をまとった男女が壇上に上がった。

若い男の子や女の子から中高年まで様々な人々。「ブンッブ・ブンブン♪ブンッブ・ブンブン♪」ベース音をアカペラで二人の男性が歌う。そして、女性ソロが始まる。

甲高い声は教会の高い天井まで響き渡る。よどみのない美しいコーラスがそれについて流れる。彼等は私の想像とは違う優しい表情の男女ばかり、ふくよかな身体を左右に動かし、大きく口を開けて大声で歌った。

力強いハーモニーは別のエネルギーから発せられているように、いつも近所の教会で聴くゴスペルとは違う気がした。アカペラのせいもあるかもしれないが、特に人間らしさが感じられるのだ。

それはドラッグ中毒から立ち直ろうと、救われようとする魂の叫びのように全力を出し切って歌う姿を目前にしているせいか。人知れず、私の目には涙が溢れてきた。

アディクション<依存症>は誰しも身近なものである。酒やタバコやコーヒーといった嗜好品に溺れたり、ギャンブルに溺れたり、セックスに溺れたり。もちろん社会で認められていることに溺れるのは過剰でない限り非難されない。

彼等はそれがドラッグという社会で認められていないものに手を出したがために社会から疎外されたわけだ。ゴスペルは、そのドラッグの代替になれるはずだという気がする。

医学的にドラッグにはドーパミン<脳内で分泌される神経伝達物質>が関与しているという説もある。同様にゴスペルも大声で歌い興奮することによって、脳内で安心や快楽を与えるドーパミンが分泌されるのではないか?と私は考える。

彼等は、ゴスペルを通じて社会復帰を目指している。残念ながらリハビリ後も再び、ここへ戻ってくる者もいるらしいが、ゴスペルによって心から救われた人は数知れない。

※ハーレムの教会を回ることは個人でも、もちろん可能だけど、トミーさんの解説がなくちゃーその背景や彼等の苦悩を知ることはなかったでしょう。ハーレム在住の私でも、知らないことがたくさんあって、今回は本当に貴重な体験でした。

トミーさんの世話好きは性分みたいです。彼にとってガイドという仕事は天職なんじゃないかなー。と勝手に決めつけてる私。自分の知ってることを惜しまず人に教えてくれたり、人の世話をやくことができる人って、本当に尊敬します。
 

残念ながらトミーさんは、今は亡き人となってしまいましたが。彼の教えてくれたハーレムの良き日は、様々な場面で、今も私を救ってくれています。

 

トミーズツアーは今も続いているようです。

 

 

https://www.tommytomita.com/