「製造元不明、型式不明。そのデザインはグロックに通ずるものの、関連性は無し。また、銃身内部に強力な毒素を含み、発砲された銃弾に付着、人体に損傷を与えた場合に体内へ侵入し生命活動を阻害する…と。また面倒なモンが出てきたな…」
上がってきた書類をざっと読み流し、机の上へと放る。椅子に背を預けると、高級感のある慣れない背もたれが俺の体重を支えた。
ここは「ホーム」と呼ばれる、この地域の蛇の基地のようなもの。世界各地のここ以外の「ホーム」ともリアルタイムに繋がり、あらゆる情報の収束点。昨日回収した銃の出所・用途の調査を指示しておいたのだが、思ったほどの成果はない。
「今のところこの程度しか判明している項目がありません。調査を継続しますか?」
そしてこの、生真面目にモニターに向かってその細身の眼鏡に光を映しているのが…ユリ・レイデン。あの孤児院の責任者である彼女だ。情報分析および操作において、彼女以上の存在はいない…と俺は思っている。「第四位」の位は伊達ではなく、この上なく頼りになる俺の左腕だ。
「とりあえず、製造元とその取引先は洗っておいてくれ。こんなモン作るほうも欲しがるほうも一回ブン殴っておかないとな。」
「了解しました、そのように。」
「まあ、あんまり根詰めるなよ。ガキどもに心配かけるだけだぞ。」
「ええ、ご配慮ありがとうございます。私ももう若くはないですし、皺が増えるのも嫌なので適度に休みますよ。」
「へーへー…そのセリフ、是非ともリキエのおばちゃんの前で頼むよ。」
「…すみません、それは遠慮させてください。」
20半ばで若くないとか言ってると、ホントいろんなトコから怒られるぞ。
☆
夕方、ホームからの帰り道。なにやら公園のあたりが賑やか…というか騒がしい。
何事かと覗き込んでみれば、どうやら新興の不良グループと思しい連中が。しかもどうやら、女の子に
ちょっかいを出しているような雰囲気だ。
「いーじゃん、まだ七時だよー?オンナもいなくてサミシー俺ちゃんらと遊んでよー」
「だからちょっと、掴まないでってば、離してって!」
「最初は王道にカラオケでも行っとく? いい店知ってるんすよーオレ。」
「防音完璧外から見えない色々し放題なイイお店ってか?」
あー…ダメだ、こういう類のバカって話して通じるようなタイプじゃないよな。ついでに言えば大っ嫌いな類の人種でもある。
「あーはいはい、オニーサン方。ちょーっとやかましいのでご退場願えませんかね。是非ともこの街から、いやむしろこの世から。」
パンパンと手を叩いてアピールしつつ、無防備を『装って』公園に足を踏み入れる。
「あァ? ンだテメェ、ガイヤはだぁーってろや、殺すぞ?」
「うん、まあそういう反応が返ってくるよね。期待通り過ぎて面白いわ。」
金髪ピアスに目つきの悪いそのツラ。まあなんというか典型的な不良…というかチンピラ。ああ、どうやら俺の言い分がカチンと来たらしく、こめかみのあたりが引きつった。その後ろにいるその他数名が「あーあジンくん怒らせちゃった、俺シラネー」とか「ひゃひゃ、死んだなあのガキww 乙www」とかなんとか言ってるけど。
「とりあえず、この近辺は特に「蛇」の影響力が強いからさ。おとなしーくしてた方が自分の為よ?」
「ヘビだかカエルだかしらねーが、テメェは殺…っ!?」
顔真っ赤にして殴りかかってきたド素人の手を捻り、合気道の要領で地に叩きつけて更に掴んだ腕をぐっと引っ張り…《ゴキリ》という鈍い音と共に、ジンくんとやらの肩が伸びた。
「うあああああああああああああああっ、いてえ、いってえええええっ!?」
「テンメっ、ザケたことってんじゃネェぞ!」
うん、聞き取れないなりになんて言いたいかはなんとなくわかるし、威勢だけは褒めるけど。どーせ痛い目見なきゃわかんないんだろうし…ね?
☆
「やれやれ、蛇の影響力も万能じゃないねー、治安に関しちゃ後でおやっさんと話し合う必要あるかな…」
チンピラ連中が「いつか殺す」だの「覚えとけよ」だのと定番の捨てゼリフを汚い唾と共に撒き散らしながら姿を消し、立ち回りで少しだけ埃で汚れた裾を払う。
「あ、あの…?」
…しまった。ちょっかい出されてた女の子のこと忘れてた。面倒にならなきゃいい…
「月代くん…だよね?」
………ああ、もう遅かったのか。この場に関わった事が既に、「面倒」の内だったわけだ。
「…鳴海…なんでこんなトコにいるんだよ…」
北嶺学園二年三組出席番号22番、鳴海さつき…俺、月代輝のクラスメイトがそこにいた。