顎髭をたくわえ、髪の毛も伸ばし放題--家族は居ない。
仕留めた獲物の毛皮を売って生計をたてている。
懐が暖まれば、居酒屋で飲食する。
が、そんなリラックスできるはずの時間も、彼の眼光は鋭いままだ。
食事中も、周囲の客達の姿を絶えず追っていた--気の休まる瞬間をひと時も作らないようにしているかのように・・
******************************
彼の子ども時代には、幸福な日常があった。
猟は、彼の父の職業だった。
狩猟の腕前、男らしさ、温かさ・・どれをとっても父は、彼にとって理想の男性像だった。
父は、危険を伴う狩りに喜んでついてくる息子を決して拒否せず、むしろ技術を授けようとしてくれることで、彼は狩りに夢中になっていった。
--母が、数年前に病死したことも、二人の絆が強まる理由となっていた。
狩りに成功すると業者に売り、その売り上げで、美味しい料理に舌鼓を打つ。
父はめったに飲めないお酒も口にする--
楽しげな父の顔は、料理の美味しさと相まって、彼にとって至福のひとときとなった。
料理店のあるところは、業者の店以外にも、いくつか店が立ち並ぶ。
そこで、弾を買い付けたり、生活用品などもまとめて買って帰る。
--そして、彼がねだるものも余裕があれば買ってくれた。
彼がそこに来るのを楽しみにしていた理由のひとつには、お店の娘に、淡い恋心を寄せていたこともあった。
中学生ぐらいの年頃の彼と、同い年ぐらいだろうか・・声をかけることすらできなかったがーー
******************************
ある日、いつものように彼は父と行動を共にしていた。
いつもと違う狩り場--いつも狩りに向かうときは、冒険の旅に出かけるような気持だった。
が、いつも父の後ろにぴたりとついていた彼が、ふと何かに気を取られ、父との距離が開いた。
すでに数歩遅れている。
その時だったーー乾いた銃声が2発響いた。明らかにトーンの違う2種類の銃声・・!
慌てて父に追い付こうとする息子の目に飛び込んできたのは、肩を押さえてのけぞる父の姿だった・・・