慧子を、数年に一度訪ねてくる女性がいた。
質素な住まいには似つかわしくない豪奢な衣装を纏ったその女性を、この住まいの監督官らしき男性の召使が、慧子に引き合わせる。
--かしこまって、少女の日常を説明する召使。
その間女性は、頷くでも微笑むでもなく、どこか気もそぞろな感じで話を聞いている。
---慧子は、自分に目を合わせることもしないこの女性が、本当に自分の
母
だろうか、と訝った。
生まれてから、数回しか『見た』ことのない女性を『母親』と言われても、懐かしさも親しみも感じない--
説明が終わると『母』は、質素な住まいには相応しくない上等な衣装が気になるのか、足元を気にしながら帰り支度を始める。
女官を従えてさっさと帰ってしまう女性を、『娘』は淡々と見送った。
客観的に見れば、哀れな娘--と思うかもしれないが、当の本人にとっては彼女があまりにも『他人』すぎて、そこまでの感情がわかないことの方が、かえって幸せだったのかもしれない--
ただ、彼女が不思議に思ったのは
この女性と自分は似ているのだろうか?
ということと
何故、弟がこの場にいつも呼ばれないのか?
の2点についてだった・・・