ダーリャは、ミハイルに恋をしていたが、奥さまから彼を奪い取ろうとまでは考えていなかった。
何故なら、彼女の姿に母を重ねたから・・・
ミハイルの妻が、思いがけない質素な装いで暮らしていることを知った時、彼女が嫉妬や葛藤を心の内深くに閉じ込めて生活する姿を想像した。
ダーリャが邸を訪ねてきた時、思わず嘘が口をついて出てしまったのも、若く、年頃の女性らしい可愛らしい装いで、男なら放ってはおかないだろう華のような--自分とは対極にある姿を目の当りにしたから--
普段の妻らしくないとも思える対応は、夫への愛からだろう--
母も不満を口にせず、苦しい生活に耐えていた・・が、ダーリャが都会へ行くと言い出した際、断固として反対したように、愛する者を守ろうとする時、その一念が、思いがけない行動をとらせることがある。
--ミハイルは、ダーリャと自分との未来に様々な障壁を考えた上で別れの判断をしたが、結果、妻の考えとも一致したことになる。
ただ、ダーリャに感じた愛が、嘘でも軽いものでもなかった事は、ひと時でも彼女との未来を真剣に考えたことにある。
居酒屋で痩せた彼女を見た時は、自分の一人娘と重なり、慈悲心から思わず引き取った。
が、生活が整っていくにつれ、華が開くように美しく変貌していくダーリャの姿を目の当りにするうち、妻には無いものが彼女にはあることに気付いた。
同時に、クリスチャンであること、信仰心が深いことから、彼女を異性として見ること自体が罪だと自分に強いてきたはずなのに、いつの間にかそれが崩壊し始めたことに悩みも抱えた。
観劇も好きだし、言い付けられた勉強も熱心に取り組む--確固たる意志に基づいて生きる妻とは違う素直さや柔軟性--もし彼女と生活を共にすることができたなら、毎日がどれほど軽やかなものになったことだろう--
彼がダーリャとの別れの後、未練を持ち続けたのか、きっぱりと忘れることができたかまでは定かでない・・
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ミハイルとの別れの後、ダーリャは心機一転、民族衣装を売りにする料理店で働き始めた。
自ら捜した職場は、優しい店長にも恵まれ、暮しが落ち着くと、田舎から家族を度々呼び寄せることができた。
社会は好景気に入り、ダーリャは店長と結婚、その後は穏やかに暮らした・・


