芝居の幕が上がると、マサの眼はひとりの出演者に
釘付けになった。
舞台に颯爽と登場したのは、若く美しい剣士--
大柄な敵を流麗な刀さばきで、ばったばったと倒していく。
マサと変わらぬ年ごろのその美剣士は、実は少女--
彼女見たさに会場へ駆けつけるのは、マサだけではない、
今日の観客のほとんどは、彼女の
『ファン』
だった。
マサも、初めて彼女を見た瞬間、恋に落ちた。
可愛い顔に似合わぬ勇ましい剣客ぶりに、芝居の内容
などそっちのけで、その姿だけを目で追った・・
彼の彼女への入れ込み様は大変なもので、その日以来
毎日、一日も欠かさず芝居小屋に通い詰めた。
そしてその都度、楽屋まで自ら足を運んでは、何某かの
プレゼントを届ける--
そんなマサの存在も、その振る舞いも、芝居小屋に来る
観客のほとんどが知っていた。
--何故なら、彼が、その界隈では知らぬ者がないほどの
有名人
だったから・・・!

