寿三郎は、家業である漁が好きではなかった。
まだ10代の若さで、両親の苦労も何も判らない年頃--
そんなある日、用事を頼まれた寿三郎は、訪れた場所のすぐ側に建つ
『道場』 の存在を知る事になる。
広い板の間を埋め尽くす剣士達--
道場に入りきらない若者たちが、庭まで溢れている。
どさくさに紛れて道場の中をのぞき込む寿三郎の目は、若者たちの姿に
くぎ付けになった・・・熱気に満ちた掛け声、一心不乱に竹刀を振り下ろ
す彼らの、真剣な眼差し--
彼らはしかし、武士ではなかった。
武士の身分でなくとも、武士のように剣を扱える--
寿三郎は、時代の流れを知る環境にはなく、何故、農民や漁村の連中が、
武士のまね事をしているのか理由はさっぱり判らなかったが、空前の道場
ブーム?を目の当たりにし、生まれて初めて心躍る自分を感じていた・・
