前世の男性は、王、もしくは領主?の許で数学の家庭教師を務めていた。
男性よりいくつか年下ーー30歳ぐらいの若い領主は、快活で子煩悩だ。
2歳ぐらいになるひとり息子は、無邪気に自分で工作?した物を教師に見せにくる。
この領主は、数学ーー 『幾何』 と言っているーーがとてもよく出来るわけではない。
けれど、とにかく数学が好きで、前世の男性の 数学を大切に思う気持ち を
とてもよく理解していた。
なので、前世の男性が時間を気にすることなく、好きなだけ研究に専念できるよう配慮してくれたし
生活に困らないよう、十分すぎるほどの経済的援助も与えていた。
領主の思いに呼応するように、城に勤める人々も等しく前世の男性を尊敬している。
前世の男性は、良き理解者を得、そして皆から尊敬されてとても幸せだった・・・
ーーーしかし、その幸せはいつまでも続かなかったーー
息子が成人(今の、20才ぐらい)に達するころ、領主は突然の死を迎える。
そして、幾何が全く出来ない息子は、父の死後、前世の男性の存在を疎ましく思うように
なっていく・・・