あまりにも美しい柱の列から
映像は、邸の屋内へと移った。
トリクリニウム(横臥式食堂)
と思われる場所で、男性が寛いでいる。
但し、すでに相当量のワインを飲んでいて
かなり酔っていた。
黒い髪に、黒い顎鬚ーー
酔いが回って、目が据わっている。
そこへ、隣接するキッチンから、褐色の肌をした
男の子がひとり出てきた。
10~11歳ぐらいと思われる少年は
その邸の奴隷だ。
調理の手伝いをしている。
邸の主人(酔った男性)が目の前にいる
にも拘らず、一瞥もくれず、鼻歌でも歌うように
ご機嫌で通り過ぎようとしたーーその時ーー
『その臭いはいったい何だーー!』
主人が、不機嫌に言葉を投げかけた。
ーーキッチンから漂ってきて、食堂にまで充満して
しまっている何かの臭いが
酔っていてもずっと気になっていて
少年が出てくるのを待ち構えていたのだ。
生意気な態度も気に入らない・・・
少年は一瞬驚いたふりをしたが、立ち止まって
振り返ると即座に
『魚の臭いですーー』
あっけらかんとして答えた。
少年の嘘を見抜くことができない主人は
納得しないまでも、それ以上問い詰めることを
しなかった・・・
